北朝鮮は、朝鮮労働党創立75周年を迎えた今月10日午前0時、首都・平壌で大規模な軍事パレードを行った。その様子は、当日午後に国営の朝鮮中央テレビで放映された。
金正恩党委員長は、演説で国民に向け「ありがとう」と感謝の言葉を繰り返すと同時に、生活苦が解消できていないことに対して、「ただの一度も満足に応えることができず、本当に面目ありません」と謝罪した。また、演説中に涙ぐむような場面もあった。
(参考記事:北朝鮮で党創立75年軍事パレード…新型ICBM登場)この軍事パレードと演説について、デイリーNKは平壌市民と、国境地域に住む市民の北朝鮮国民2人にインタビューし、北朝鮮国内の反応を探った。
平壌市民は、軍事パレードを見てプライドを感じ、金正恩氏に対する忠誠心と信頼感を新たにした一方で、地方の住民は一連の行事に概ね無関心で、新型コロナウイルスの余波による生活苦に無策な政府に批判的な姿勢を示した。
平壌には、党や国家の機関に勤務し、途絶えがちとは言え配給を受け取り比較的安定した暮らしをしている人が多い。一方、地方では遥か昔に配給は途絶え、人々は市場での商売など、自らの力で生き抜くことが求められる。そのため、平壌と地方では国、党、最高指導者に対する感情に違いが見られる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面(参考記事:北朝鮮の特別配給「平壌市民は豪華食品、地方はジャガイモ」)
同じ地域の住民でも、社会的、経済的地位や、外部からの情報を得ているか否かなどにより、金正恩氏や労働党に対する見方は様々で、1人の意見がその地域を代表するわけでないが、その地域での大まかな雰囲気を知るにあたって参考になると言えよう。
―史上初の夜間開催となったが、既存の慣例から外れたやり方について住民はどのように言っているか?
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平壌在住Aさん:平壌市民はこのような行事を見せてくれた党中央に対して「ありがたい」と言っている。夜にやったからこそ、あのような素晴らしい夜景と祝砲(花火)を見られたのではないかと、今までの行事とは断然違い、頭がしゃきっとしたと言っている。平壌だけで視聴可能な万寿台(マンスデ)テレビで見た外国の軍事パレード並みにかっこ良い、わが国(北朝鮮)も発展した外国のレベルに向かいつつあるとプライドを持ったとも言っている。
地方在住Bさん:こっちでは様々な反応が出ているが、「戸惑いを感じた」という反応が最も多かった。従来は実況中継はしなくても、午後2時ごろになれば録画中継をやるものだったが、それがなかったため、多くの人が事故でも起きたのではないかと考えた。午後7時になってテレビで軍事パレードの様子が録画で放送されて、ようやく昼間ではなく夜間に行われたことを知った。
すると「参加した人はたいそう苦労しただろう」と同情の声が多く上がった。また、「何を恐れてあんな夜中にやったのか」「(敵の攻撃を受けて)一度に皆殺しにでもされるかもしれないと恐れたのではないか」などと言った声もあった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面―金正恩氏は人民に感謝と謝罪の意を示して涙ぐんだが、それについての反応は?
Aさん:党幹部たちは、元帥様(金正恩氏)を奉じる忠誠の心を人民の心に刻み込んだ、人民が党を信じて従うようになる確実なきっかけとなったと評価している。どの家でも、元帥様が泣かれた場面を見て皆が感動して泣いた。平壌市民は元帥様の涙を見て、いくら国の状況が苦しくつらくとも、党と元帥様だけを信じて苦楽生死を共にすると固く決心したなどと熱い反応があった。
Bさん:言葉にして論評する人はいないが、ニタニタ笑うことで反応を示している。感謝と謝罪で涙を流すのなら、庶民が暮らしやすい世の中を作ってくれれば良いのにということだ。テレビに映し出されたのは、彼(金正恩氏)以外は、皆げっそりと痩せて血の気がなくシワだらけの顔の人ばかりで、呆れてものも言えないという雰囲気だった。
庶民はあんな情けない暮らしぶりなのに、なぜ米国と争うなどと言って武器ばかり作るのか、なぜ南朝鮮(韓国)と敵対関係になるのか、あんな演出はもはや通じない。
―新型コロナウイルスの感染者が1人もいないということだったが?
Aさん:インフルエンザ、腸チフス、パラチフス、流行性結核になる人が多いが、かつてはよく効いていた薬を処方しても完治せずに死ぬ人が周りに多く、伝染病(新型コロナウイルス)がわが国に入ってきたのに、元帥様の周りには(そんな人は)いないようだと言っている。
元帥様は人民のために胸を痛めて泣かれたのに、中間幹部がきちんと実態を報告しないから、ご存じないのかもしれないと元帥様をかばう人もいるが、伝染病患者が全くいないということについては半信半疑だ。
(参考記事:全世界はコロナで苦しみ、北朝鮮はチフスで苦しむ)Bさん:いないとは言うが、伝染病で死んだ人が多いとの噂だ。伝染病と確定されれば、家ごと燃やすしかないとの噂も流れ、人々は恐怖に震えている。今でも毎日のように防疫のことで大騒ぎしていて、人々は以前より気をつけるようになっている。
―閲兵式で新型ICBMなど様々な戦略兵器を公開し、先制攻撃用ではないと強調している
Aさん:元帥様のお言葉を信じる雰囲気だ。あんな現代的な軍事装備や軍服を初めて見た、われわれが苦しい思いをしているのは自衛的国防力強化のためだから、辛くとも元帥様の領導に従っていくべきだと皆が言っている。
Bさん:変なミサイルがいっぱい出たと囁いているが、ほとんどの人があれがどれほどすごい威力を持っているのか全然わからず、正直言って興味すらない。核ミサイルさえあれば、どんな国も攻め入って来れないという講演会で語られた話から、だいたいこれくらいのものだろうと想像するに過ぎない。
この世で最も強力な武器を持っているのはわが国だけだからびくともしないという言葉を、そっくりそのまま信じてプライドを持っている人もかなりいる。
―「北と南が再び手を携える日が来ることを祈願します」との言葉もあったが、南北関係が改善するとの期待感はある?
Aさん:とても期待している。南朝鮮からのコメや、国際機関を通じた医薬品の支援がたくさん来れば良いと言っている。済州島のみかんも美味しいらしいなどと言って、手を携える日を心待ちにしている。
Bさん:北南関係の改善などは口だけだというのが住民の反応だ。これまでの演説を見ると、南朝鮮当局者に対しては強い口調や脅迫調で語り、南側の同胞には良い印象を与える言葉をよく使っている。これは南朝鮮住民も元帥様の愛と恵みを受けるべきと考えているからだろう。
―党創立日まで完成させると言っていた平壌総合病院についての言及はなかった。住民は何と言っている?
Aさん:元帥様が自ら苦難と試練とかき分けてお進みになるのに、平壌総合病院があっという間に外観だけでも建てられたのは、世界的な奇跡だと言っている。元帥様が涙を流されるの見て、胸が張り裂けそうになり、皆がこの国の事情を理解すべきだと言う雰囲気だ。
Bさん:建物はほとんど完成したが、竣工式をするほど内部工事ができていないと聞いている。中に入れる設備が全く不足しているので、竣工式は早くとも来年の党大会(朝鮮労働党第8回党大会)前になるのはないかと見ている。
(参考記事:金正恩「残酷病院」に充満する恐怖と苦痛と恨み)―住民は今回の党創立日の行事について全般的にどう評価している?
Aさん:歴史的な場面で、わが国も世界的な地位に堂々と登りつめ、地球の中心に確固たる地位を築いているとプライドを感じている。生まれてはじめて見たかっこいい行事だった、テレビで見た中国やロシアなどの大国ど同様の行事をわが国もやり遂げた、と皆が自慢げだ。
また、「巣毀たれて卵破る」(国や社会や組織がきちんとしていなければ、皆が害を被る)というが、国の国防力と軍事力が強いので、腹をすかせていても腹いっぱいだと言っている。元帥様にさえ従っていけば、勝利のその日に米のご飯に肉のスープを皆が食べられる日が来ると信じて、皆が感激している。
(編集部注:金日成主席が1962年10月の最高人民会議で「人民が米のご飯に肉のスープを食べ、絹の服に瓦の家に住めるようにするべき」と語ったことから、米のご飯と肉のスープは、豊かな暮らしの象徴となっている。)
Bさん:地元の人々は、党創立の記念日だろうが何だろうが興味がない。さらに平壌で開かれる行事には関心など持たない。関心を持っていたとしても、何かもらえるわけでもなく、逆にあれ出せ、これ出せと言う(供出を要求される)ばかりなのに何の意味があろうか。
当局が伝染病を言い訳にし、国境を完全封鎖し、密輸も完全に遮断したので、本当に死にそうで、あちこちからうめき声が上がっている。それなのに、平壌で派手にミサイルの自慢なんかして騒ぎ立てているのを見ると呆れるばかりだ。
(参考記事:【北朝鮮国民インタビュー】コロナ苦境で口減らし、家を出る老人たち)