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朝鮮半島では昔から、高齢者を大切にすることが美徳と考えられてきた。しかし、そんな理想と現実は年を追うにつれ、乖離が激しくなっている。韓国では高齢者の貧困が社会問題化している。

OECD(経済協力開発機構)の2015年の調査によると、韓国の65歳以上の貧困率は49.6%。平均値(12.6%)の4倍近くで、2位のオーストラリア(35.5%)、3位の米国(21.5%)、4位の日本(19.4%)を引き離し、不名誉な1位を記録している。

その原因として挙げられるのが、公的年金制度の不備だ。韓国保険社会研究院が昨年7月に出した報告書によると、年金などの公的支援だけで最低生活費を賄える高齢者は全体の16.9%に過ぎない。国民年金制度が始まったのが1988年で他国に比べて遅かったのに、高齢化の進み具合が他国より速いことが主な理由だと指摘されている。

ちなみに2020年にソウル市が策定した1ヶ月の最低生活費(1人暮らし)は約105万ウォン(約9万4000円)だが、年金だけではその3分の1にも満たない。

さて、一方の北朝鮮だが、憲法で福祉制度の充実を謳っている。

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第72条 公民は無償で治療を受ける権利を持ち、年老いたり病気または障害で労働能力を失った人、面倒を見る人のいない老人、子どもは物質的幇助を受ける権利を有する。この権利は、無償治療制、増え続ける病院、療養所をはじめとする医療施設、国家社会保険と社会保障制により保証される。

しかし、現実は著しい「違憲状態」だ。

北朝鮮の社会主義労働法は、定年退職した人に年老者年金を支給することを定めているが、ほとんど意味のないものとなっている。北朝鮮の男性は、国営企業や国の機関に勤めるが、コメ1キロが買えるか買えないかほどの給料しかもらえない。それだけではない。

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今年の北朝鮮は、相次いで3つの台風に襲われたが、一人暮らしの高齢者を中心に死者が続出したというのだ。その詳細を、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

咸鏡北道人民委員会(道庁)は、台風により主に山間部や漁村部で一人暮らしをしていた高齢者の被害が多発し、36人が死亡したとの統計を示した。

情報筋によると、一連の台風では若い世代死からも多くの死者が出たが、体が動かせずに床で横になったままで亡くなっていた高齢者も少なくなった。そのほとんどは世話をする人がいなかったという。

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当局は、その責任が地区、人民班(町内会)の班長にあるとして責任を追求、人員を交代させた上で、各洞事務所(末端の行政組織)が、人民班に一人暮らしの高齢者を状況を把握させ、老人台帳を作らせた上で、住民が交代で見回りを行い、人民委員会に報告するシステムを、今月10日の朝鮮労働党創立75周年の日までに構築するよう指示した。

金正恩党委員長は今年、家がなく物乞いをして生きている高齢者について、国が面倒を見るように指示を下した。人民班の見守りシステム構築も、この指示の延長線上にあると思われる。

(参考記事:「物乞いを収容せよ」金正恩命令に国民から疑問の声

本来は国が責任を持って面倒を見ることになっているのに、一般住民に丸投げする今回の指示は、人民班長や住民の間で反発を招いている。

一人暮らしの高齢者が、衣食住や燃料の不足で死亡することは珍しくない。面倒を見る家族がいても、家族の負担になるまいと家を出る高齢者も少なくない。

(参考記事:【北朝鮮国民インタビュー】コロナ苦境で口減らし、家を出る老人たち

人民班長や住民は、そのような状況について残念に思いつつも、皆が台風によるや新型コロナウイルス不況で苦境に立たされ、自分の親の面倒すら見きれない状況なのに、他人のことまでかまっていられない、そのケアを一般住民に押し付けるのはありえないととの反応を示している。

また、国が進める建設事業の工事現場に毎日のように動員された上で、生きていくために市場で商売をしているのに、一人暮らしの老人の面倒を見る余裕がないなど不満を述べている。

国のため、社会のため、家族のために汗水たらして一生働いても、年を取れば「穀潰し」の扱いを受けてしまうのだ。それは高齢者に限らず、先天的、または労災事故などで障害者になった人、軍人として勤務していて怪我を負った人、コチェビ(ストリート・チルドレン)も同じだ。

(参考記事:平壌の傷痍軍人“キムさん”がうどんを売るワケ

そんな反応に接した洞事務所のイルクン(幹部)だが、住民の日々の暮らしを間近で見ているだけあって、何も言えずに困り果てているが、国からの指示を無視するわけにはいかず、指示通りに進めるとのことだ。