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朝鮮半島を南北に分断する軍事境界線上にある板門店(パンムンジョム)。外国人に限ってソウルからの日帰りツアーが訪問が可能だ。参加者には服装の制限が課せられるが、そのひとつがジーンズを着用してはいけないというものだった。その理由は「韓国の人たちは青いズボンしか履けないほど貧しいと北朝鮮のプロパガンダに使われるから」というものだった。

今では規制が緩和され、ダメージジーンズ以外ならジーンズも認められるようになったが、そこには北朝鮮のジーンズ観の変化がある。北朝鮮にジーンズを知らしめたのは、林秀卿(イム・スギョン)氏だ。

学生運動の活動家だった彼女は、北朝鮮がソウルオリンピックに対抗して1989年に開催した第13回世界青年学生祭典に、韓国政府の制止を振り切って参加した。白いTシャツとブルージーンズで自由に振る舞う彼女に、北朝鮮の人々は大きな衝撃を受けた。

(参考記事:北朝鮮が動揺した「死ぬほど生意気な女子大生」の衝撃の言動

その後の北朝鮮では、ジーンズが「憧れのファッション」となり、当局の「ジーンズは米帝のみすぼらしい作業服」という宣伝も徐々に通用しなくなった。それなのに当局者の頭の中は旧態依然。国民からジーンズを奪おうとして取り締まりを行い、反発を買っているが、そんなものはどこ吹く風で取り締まりの対象を拡大している。

(参考記事:ジーンズ禁止に北朝鮮国民が反発「ズボンと思想に関係が?」

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平安南道(ピョンアンナムド)の住民は、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に、平城(ピョンソン)では今月初めから突然、個人経営の服屋に安全部(警察署)がやって来て取り締まりを行うようになったと述べた。

その対象とは、英語や十字架が描かれた衣類だ。運悪く取り締まりに遭ったのは5店舗。いずれも市内中心部の駅前洞(ヨクチョンドン)と陽地洞(ヤンジドン)に店を構え、国内外の衣類を幅広く扱ってきた店だが、「南朝鮮傀儡(韓国)が中国経由で押し付けてきた不良商品」だとして、対象商品を没収し、罰金刑を課した。

現地では今、こうしたデザインの半袖シャツが若者の間で流行している。金日成金正日主義青年同盟(青年同盟)はこのような服を「社会主義にそぐわない」との理由で問題視し、取り締まりを行ってきた。しかし効果が上がるどころか、むしろ流行が広まるばかり。そこで、安全部が販売の取り締まりに乗り出したというわけだ。

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別の情報筋によると、地元の党委員会の宣伝カーが市内を巡回しつつ、取り締まりに遭った商人の実名を挙げて「南朝鮮を服を販売した」などと、がなり立ているという。

「私腹を肥やすのに目がくらんだ者どもが、白頭の精神で革命的に生きている青年たちの意識を蝕む宗教を象徴する十字架が描かれたり、奇怪な絵がくっつけられたりした商品を取り寄せて販売、反社会主義行動を躊躇なく行っている」

商品については「南朝鮮の敵対勢力が中国経由で突きつけてきたゴミのような古着」とこき下ろした上で、悪徳商人だと口汚く罵る。

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「安物の服を高く売りつけ私服を肥やす者どもの行為は、社会主義制度を瓦解しようとする敵どもの策動を幇助する行為であると心に刻め」

日本の街宣右翼を彷彿とさせる、当局挙げての大々的なネガキャン。しかし、あまり効果がないようで、市民は首を傾げつつ反発している。そもそも「十字架や英語がなぜ敵対勢力を象徴するのかわからない」というのだ。

北朝鮮当局はキリスト教を目の敵にしていて、聖書を持っているだけで処刑するほどだが、国民にはキリスト教がいかなるものかを教えておらず、人々の知識は極めて乏しい。それで「十字架のどこかなぜダメなのか」という反発につながる。

(参考記事:「禁断の書」を持っていた北朝鮮女性、密告され処刑

さらに、当局のダブルスタンダードを鼻で笑うこんなリアクションもあったという。

「(1990年代の大飢饉)苦難の行軍のころ、大量の餓死者が発生したが、国連から援助してくれた食糧の袋には英語と十字架が書かれていた。それなのに今になってダメだなんて何を言っているんだ」

この手の取り締まりは数十年に渡り、強弱を繰り返しながら行われている。当局の担当者にとっても、指示されたからやっていると「やってる感」を出すのが大切なのであり、効果の有無など関係ないのだ。効果があれば何十年もやる必要はない。