ジーンズ禁止に北朝鮮国民が反発「ズボンと思想に関係が?」

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パターナリズム――様々な訳語があるが、簡単に言い換えると立場が上の者が下の者に向かって、「俺はお前のためを思って言っている」などと言って干渉することだ。様々な文化圏で見られるが、国を「親」、国民を「子ども」とする国家観との相性が抜群に良い。

それが、露骨な形で現れているのが、最高指導者を「父」と崇める今の北朝鮮だ。何が正しく、またそうでないかを勝手に決めて、国民に従うことを強要している。その中身は非常に馬鹿げたものが多く、政府が最近、地方政府に対して下した指示にこんなものがあった。

「住民の間でジーンズを穿いたり密売したりする現象が現れないよう教養事業を行うことについて」

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)に、この指示に従って、市内の通りでは糾察隊がジーンズを穿いている人を、検閲グルパがジーンズを製造・密売する人を取り締まり、司法機関に突き出していると伝えた。当局は厳罰を予告しており、ジーンズを好んで穿く若者たちの間に緊張が入っている。

なお、発見したジーンズはその場で没収し、焼却処分しているとのことだが、没収したものを取締官がネコババしたり、市場に横流ししたりするような従来のような現象が起きているかについて、この情報筋は言及していない。

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取り締まりの理由だが、「ジーンズをはくことは、わが人民の健全な思想意識を麻痺させる資本主義生活様式」というものだ。

北朝鮮当局は一昨年ころから、「非社会主義、反社会主義現象」に対する取り締まりを強化している。これは、当局が勝手に決めた「社会主義にそぐわない行為」を取り締まるものだが、対象範囲は密輸、賭博、売買春、違法薬物の密売や乱用、ヤミ金融、宗教を含む迷信などに加え、韓国など外国のドラマ・映画・音楽の視聴など多岐に渡る。

(参考記事:北朝鮮に「ブラジャー」がもたらした意識変化

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今では対象から外れているが、数年前までは、女性が自転車に乗ることも禁じられていた。その理由は定かでないが、国営の朝鮮中央テレビは「女性がスカートをなびかせながら自転車に乗ることは社会主義美風良俗に反する」と主張し、「女性は急な状況への対処能力が劣っており、慌てて大事故を起こす可能性がある」などとする「専門家」の意見を紹介していた。「女性のあるべき姿」に加え「女性の身体能力」を当局が勝手に決めていたのだ。

(参考記事:北朝鮮の女性が勝ち取った「自転車に乗る権利」

また、結婚や離婚にも当局は口を出してくる。夫婦は個人の結びつきではなく、革命を達成するための末端の細胞(組織)だ、出会いは革命的に、家庭も革命的に、などと言ったものだ。離婚を害悪と見なし、そのハードルを上げたり、少子化対策のために妊娠中絶を禁止したりする行為も、セットになっている。

(参考記事:金正恩氏の「離婚厳禁」が生んだ若者文化の大変化

お隣の両江道(リャンガンド)の情報筋も、現地でジーンズの取り締まりが始まったと伝えている。元々、ジーンズは「資本主義退廃文化の象徴」として禁止されていたが、中国から持ち込まれて売られるようになり、若者の間で人気を集め、国内での製造も行われるようになり、当局は黙認していた。

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お仕着せがましい取り締まり令に、住民からは強い反発が出ている。

「ズボンに何の思想があるんだ、なぜこんなに大掛かりに取り締まって処罰するのか」(情報筋)

ジーンズ取り締まり令は、ただでさえ苦しい北朝鮮経済にも悪影響を与えている。

平安北道(ピョンアンブクト)の貿易会社の幹部は昨年8月、RFAに、国内のアパレル工場に対して、中国企業からジーンズの注文を受けるなとの指示が下され、工場の稼働率が低下したと伝えた。

当局は、工場労働者が完成品をネコババして国内の市場に横流しし、若者の間でジーンズが流行したことを問題視し、「異色的な思想文化と変態的な生活様式を徹底して排撃する」との思想教養事業を繰り広げたとのことだ。

アパレル工場を営む外貨稼ぎ会社の社長は、国際社会の制裁の目をかいくぐってジーンズの加工と輸出を続けてきたのに、今回の指示で仕事が減り、従業員に給料が払えなくなったため解雇せざるを得なくなったと嘆いた。

取り締まりに当たる地方政府が、「ジーンズは退廃的」と本気で考えているかどうかは不明だ。取り締まり権限を振りかざし、ワイロをせびることが常態化しているのに、長年黙認してきたのは、さほど問題視していないか、住民の反発が強いからだろう。

ただ、上部からの指示があったため、格好の実績作りとして熱心に取り締まりに取り組んでいるだけの可能性もある。いずれにせよ、ほとぼりが冷めれば、元の木阿弥となるだろう。当局がジーンズ以上に嫌っている韓流も、流入から20年経っても根絶できていないのだから。