北朝鮮の北東部、咸鏡北道の清津(チョンジン)。日本の植民地支配下にあった時代から重工業都市として知られ、金策(キムチェク)製鉄所、城津(ソンジン)製鋼所など製鉄業が盛んだった。
しかし、旧共産圏からの援助が途絶えたことや、施設の老朽化、経済の混乱で、かつてのように操業ができなくなってしまった。
(参考記事:北朝鮮の製鉄業のシンボル、稼働率が5割以下に低迷)青息吐息の状態が続く重工業に代わって、清津の経済を牽引しているのが商業と軽工業だ。その一つ、清津かばん工場は、中国からの投資の誘致に成功し、様々な種類のかばんの製造を行う優良企業として成長を遂げた。金正恩党委員長も訪れ、その後も国営メディアでよく取り上げられている。
順調だったはずの工場だが、最近になって突如として幹部が解任された。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)がその詳細を伝えている。
(参考記事:金正恩氏、咸鏡北道で経済部門を集中視察…工事の遅れで内閣を叱責)咸鏡北道の幹部がRFAに語ったところによると、このかばん工場は中国との合弁会社で、設備と資材の調達、製品の販売は中国の業者が行ってきた。製品は評判がよく、中国にも輸出するほどで、生産量、販売量も増加。清津市に国家計画金(法人税)を期限までに納付し、100万北朝鮮ウォン(約1万2000円)の月給をきちんと支払い、模範企業に選ばれた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮の国営企業の平均的な月給の4000北朝鮮ウォン(約48円)の20年以上分に当たるが、平均的な4人家族の1ヶ月の生活費が50万北朝鮮ウォン(約6000円)であることを考えると、極めて現実的な額だ。
すべては順調なはずだったが、大きな狂いが生じた。コロナだ。
新型コロナウイルス対策で貿易が停止、資材が取り寄せられなくなり、稼働が止まってしまった。当然、国家計画金も給料も出せない。ところが当局の取った対策は、工場幹部のクビをすげかえることだった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面西隣の両江道(リャンガンド)でも、生産実績が振るわなかった工場の幹部を交代させよとの中央の指示が来たと現地住民が伝えている。
道内に数多くあったアパレル工場や食品工場は、高額の給料を現金または食糧で支払い、従業員は何の心配もなく生活できたが、新型コロナウイルス対策で貿易が停止されたされたことで、この半年稼働が止まってしまった。地元住民は、経済停滞は政府の過剰な対策がもたらしたものなのに、「幹部の能力不足」を原因にして、責任をなすりつけていると見ている。
一件を知った人々は呆れ返り、「自分たちも解決できないくせに」と政府のやり方を批判している。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面このような責任の転嫁は北朝鮮で広範に見られる現象だ。それは、重罰主義がもたらした弊害とも言える。失政に対する処罰は過酷で、単にクビになるだけでは住まず、都市からの追放、全財産の没収、下手をすると物理的にクビが飛ぶ事態にもなりかねない。
こぞって下へ、さらに下へと責任をなすりつけ続け、運の悪い人、カネもコネも足りない誰かが貧乏くじを引かされるのだ。
(参考記事:金正恩氏のコロナ対策失敗で「いけにえ」にされる人々)