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北朝鮮でまもなく収穫期を迎える松の実。マツ科マツ属の樹木であるチョウセンゴヨウ(朝鮮五葉)に成り、古くから食材、漢方薬として古くから珍重され、中国にも輸出されてきた。それだけあって松の実利権の争いは熾烈だ。

土地の私有が認められていない北朝鮮で、松林も国有財産となっている。管理は市や郡の山林経営所が行っているが、ワイロと引き換えに企業所や工場、個人に松の実の「採取権」を与えている。

このような国有財産を勝手に処分する行為は、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころから広く行われているものだ。現行刑法に国家財産窃盗罪、国家財産詐取罪、国家財産横領罪、国家財産大量略取罪などと、国家財産を盗み出すことに関する条文が多岐に渡って存在しているのは、このような現状を反映したものと言えよう。

そんな状況に中央がストップをかけた。

中央党(朝鮮労働党中央委員会)と内閣は今月1日、松の実のなる林に対する統制を強化し、より多くの外貨を稼ぎ出す源泉として確保することに関する共同指示文を各地方政府に下した。

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両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、指示文は一部の道のイルクン(幹部)が、国家財産である松の実のなる林を勝手に処理していると指摘。収穫した松の実は国と外貨稼ぎ機関に半分ずつ収め、個人に売り払った林で収穫された松の実は、8割を国に収めよとしている。さらに、違反した地方政府に対しては、厳しい検閲(監査)を行い、法的責任を取らせ、採集権を売り払った責任者は誰であろうと逮捕せよと指示している。

チョウセンゴヨウが多い両江道は、経済事情が悪化した今年の春、個人に採集権を売り払い、得たカネを国家への上納や道内の様々な建設事業の予算に当てていたのだ。

(参考記事:数少ない輸出アイテム「松の実」に群がる北朝鮮の国営企業

中央の指示に対し、地方政府からは異論が上がっている。採集権を個人に売り払ったのは、松の実を収穫する労働力が足りないという事情があったからなのに、中央が労働力を供給してくれない限り、指示には従えないとの主張だ。

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咸鏡北道(ハムギョンブクト)や咸鏡南道(ハムギョンナムド)は、武装させた人員を林に配置して警戒に当たらせている。採集権を買った人が規定の収穫量の2割以上を持っていかないようにするためだろうが、誰も見ていない山奥でのこと。ワイロで適当にごまかすことくらい、いくらでもできる。

実際、山林監督員の目の及ばない山の奥深くにある松林では、地域住民が松の実を採取して、外貨稼ぎ事業所に売って現金収入にしてきた。

北朝鮮は、国際社会の制裁で輸出に厳しい制限を受けているが、制裁を気にすることなく輸出できる数少ないものが農産品だ。松の実に限らず、輸出できるアイテムがあれば、国の機関、貿易会社、地方政府、地域住民が一斉に飛びつく。

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中でも両江道(リャンガンド)は、平均海抜1338メートルの高地にあり、夏は清涼で冬は極寒となる。農耕には適しておらず、道の面積全体に占める農耕地の割合は6.2%。栽培すると言っても、できるのはジャガイモ、トウモロコシなどのさほどカネにならないものばかりで、住民は極貧生活を強いられている。そんな地方の人々にとって、松の実は、トゥルチュク(クロマメノキの実、ブルーベリーの一種)などとならび、数少ない金のなる木だ。

WFPの2008年の分析によると、2003年から2005年からの平均で、食糧配給の対象となる人々のうち半数が狩猟や採集で食料を得ており、2008年には7割を超えていた。商業や鉱業が発達しているものの、近代以前と変わらない暮らしを強いられている人が大勢いるのだ。

(参考記事:今年も北朝鮮で繰り広げられる「ブルーベリー」争奪戦