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北朝鮮は先月24日、「悪性ウイルス」への感染が疑われる患者が確認されたとして開城(ケソン)市を完全封鎖する措置を取った。悪性ウイルスとは新型コロナウイルスのことを指すと思われる。そして件の患者は、3年前に脱北し韓国で暮らしていたが、最近になって北朝鮮に戻った20代の男性である。

北朝鮮当局は、この男性を韓国に対する敵愾心を煽るプロパガンダの材料として使っているが、国民からの反応は様々なようだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

(参考記事:「コロナ感染」の脱北者男性、北朝鮮で当局に自首か

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の幹部によると、道保衛部(秘密警察)の指示で、道内の各機関、工場、企業所、人民班(町内会)で毎日会議が開かれ、新型コロナウイルスに関する教育と合わせて、元脱北者についての教育が行われている。

「南朝鮮(韓国)に逃げて開城に戻ってきた脱北者により、開城地域でコロナ伝染病が拡散しているので、警戒を高めよ」

また、会議ではこの男性の排泄物に「新型コロナウイルスがぎっしり詰まっていることが確認された」(情報筋)とも伝えられた。

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ちなみに、韓国の中央防疫対策本部は先月30日、この元脱北者の所持品16点を検査したが、新型コロナウイルスは検出されなかったと発表しており、実際に感染していたかはわかっていない。

会議に参加した住民は「どうせ死ぬのはわかっているはずなのに、戻ってきた目的は明らか」だと憤慨しているという。ちなみに「どうせ死ぬ」というのは、新型コロナウイルスによる感染症のせいではなく、国家により抹殺されるということだ。

(参考記事:北朝鮮の公開処刑、拷問など非難…米国務省が人権報告書

人民班の会議ではこんな話まで出たという。

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「わが国(北朝鮮)にコロナを撒き散らして体制崩壊を狙う南朝鮮の陰謀に警戒せよ」
「戻ってきたら隠れていてもまだ足りないくらいなのに、開城市内を闊歩したことは、故意にコロナを撒き散らすための逆賊行為だ」

それを聞いた住民の一部からは「帰郷者(元脱北者)を火炎放射器で焼き殺せ」といった過激な発言も飛び出したという。

当局にとって、明確な説明ができない事案や、迷宮入りした事件、真相が究明されれば自分たちのクビが飛びかねない事件などについて、「米国や韓国の陰謀」「安全企画部(韓国の諜報機関、現国家情報院)の仕業」などと、責任を外部勢力になすりつけるのは常套手段だ。

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「コロナ事態による国境封鎖と地域間の移動遮断で著しい生活苦に瀕している住民たちは、当局の宣伝の事実と信じ、新型コロナウイルス感染症を利用した南朝鮮の安全企画部の陰謀だと憤慨する雰囲気だった」(幹部)

(参考記事:「新型コロナは韓国が撒いた」北朝鮮がフェイク情報

一方、別の住民が、保衛部に勤める知人から聞いたという話によると、コロナに対する恐怖心で宣伝を信じてしまう人がいる一方で、信じようとしない人もいるという。

保衛部は、人民班の会議で「元脱北者は南朝鮮安全企画部の工作員」と宣伝しているが、一部の住民はその内容に半信半疑だという。わざわざ豊かな南朝鮮に行ったのに北朝鮮に戻ったということは理解しづらく、本当に新型コロナウイルスに感染していてばらまこうとしたならば、いくらでも別の方法があったはずだと考えているという。また、「元脱北者の体が新型コロナウイルスでいっぱい」という話も嘘くさいと思われているもようだ。

当局の宣伝を疑いの目で見る人々も、脱北者が韓国社会において、様々な問題を抱えていることは知らないのだろう。

(参考記事:命がけで逃げてきたのに…韓国社会の「差別」に苦しむ脱北者たち