北朝鮮には朝鮮中央銀行をはじめ複数の銀行が存在するが、利用する人は非常に少ない。国の奨励に応じて預金したはいいものの、引き出すのが困難で、資産が国に奪われるリスクを感じているからだ。
また、多額の預金をすればどれほどの資産を持っているかが国に筒抜けになってしまうのも非常に危険だ。
(参考記事:北朝鮮全土には朝鮮中央銀行の支店が9店舗、地方商業銀行は210店舗)そこで多くの人が、銀行など国の監督下ではないところから資金を調達する「インフォーマル金融」(私金融)を利用していると言われているが、その実態はわかっていない。
韓国の中央銀行である韓国銀行は、韓国に住む脱北者を対象にインフォーマル金融に関する調査を行い、報告書を発表した。
まず、調査対象は韓国に住む脱北者212人で、出身地域は中国との国境に接した地域が107人(50.2%)、内陸の都市部が65人(30.8%)、内陸の郡部が40人(19.0%)という内訳だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面インフォーマル金融の使用経験を問う質問に「ある」と答えたのは27.8%。地域別には、国境地域が30.3%、都市部が35.0%、郡部が20.6%となった。
形態別に見ると、信用に基づいて商人間で行われる信用取引(掛取引)は11.6%だった。ただ、国境地域が20.3%、都市部が22.2%だったのに対して、郡部は0%だった。地方における市場経済化の進展が伝えられてはいるが、都会と比べて小規模であることがうかがえる。
(参考記事:北朝鮮の農村に小規模な市場が続々…進む市場経済化)一方で金銭貸借は、全国で17.8%、国境地域で14.6%、都市部で15.6%、郡部で20.6%で、郡部が最も多い結果となった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面協同農場では、農民(農場員)がトンジュ(金主、新興富裕層)から金銭ではなく穀物を借り、種や営農資材を購入し、収穫後に利子を付けて穀物で返す形の取り引きが広く行われている。
金銭を貸して利子を取る行為は刑法で禁じられた高利貸し罪にあたり、リスクが高いため、金銭の代わりに穀物が使われるが、度重なる自然災害などのせいで充分な収穫が得られず、返済に行き詰まる事例も報告されている。
(参考記事:農民も借金取りも途方に暮れる北朝鮮の農村の冬)全体の金融取り引きのうち、67.5%が利子付きのもので、その中で利子は「1〜9%」が23.1%、「10〜19%」が46.1%、「20%以上」が30.8%、平均は13.1%だった。また、20%以上の利子を取る割合は、信用取引の場合は37.5%、担保ありが20.0%だった。
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借り入れの目的を尋ねる質問に「商売の資金調達」が61.0%で圧倒的に多く、「水産業、漁業など生産目的」と答えた人は7.8%に過ぎなかった。また、密輸目的の借り入れも18.0%に達した。
2012年から2018年の平均所有資産を問う質問では、平均額が1761ドル(約19万円)で、うち現金が1310ドル(約14万1000円)という結果となった。ただし、「0ドル」と答えた人が45.5%で圧倒的に多く、「3万ドル(約323万円)以上」と答えた人が2.6%で、中央値は130ドル(約1万4000円)だった。
今回の調査の結果について報告書は、北朝鮮のインフォーマル金融は、ペレストロイカ初期だった1986年の旧ソ連よりは大きいが、中国の経済開発が本格化した2001年や開発途上国の1990年代後半と比べて規模が小さいと評価した。
北朝鮮に関する実態調査は、直接現地の調査対象者に質問をすることが不可能に近く、ほとんどが脱北者を調査対象としたものだ。そのため、今現在の北朝鮮を知ることは難しく、時間差である程度の傾向を掴むものとなっている。
例えば、今年に入ってから新型コロナウイルス対策として国境が封鎖されたことで、北朝鮮の経済状況は深刻になっていると伝えられているが、一部から漏れ伝わる情報をパズルのように組み合わせて全体像を描くしか方法がない。
(参考記事:北朝鮮の市場に異変「商人の数が激減している」)