北朝鮮版「細うで繁盛記」の悲惨過ぎる結末

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世界で最も企業活動に適していない国を挙げるとするならば、北朝鮮になるだろう。おそらく世界で唯一、個人の企業活動を禁じているからだ。

北朝鮮の刑法114条は、個人が企業を経営して営業活動をし、多額の利益を得た場合には最高で2年以下の労働鍛錬刑に処すると定めている。企業経営ができるのは、国の機関、国営企業だけで、個人には許されないということだ。トンジュ(金主、新興富裕層)が経済の牽引役となり、なし崩し的な市場経済化で貧富の格差拡大が続く今の北朝鮮では、もはや現実とかけ離れた法律だが、未だに残っている。

家族全員を拷問か

この法律のせいどうかは不明だが、商売熱心な夫婦が極めて理不尽な目に遭ったと、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

その場所は、中国と国境を面する穏城(オンソン)郡旺載山里(ワンジェサンリ)。1933年3月11日、後に北朝鮮の主席になる金日成氏が、抗日武装闘争を朝鮮半島にも拡大させる戦略を示した「旺載山会議」を開いた革命の聖地のお膝元だ。

そこに住んでいたある夫婦は、研究を重ねた結果、3年前にお菓子の月餅を独自生産する技術を開発した。自宅に増設した離れに工場を作り、家族総出で月餅を作って市場で販売したところ、「中国からの輸入品よりも美味しい」と大評判になった。

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やがて口コミでその評判が広がり、トラックで乗り付けて仕入れに来る人も現れるほどの人気だった。家族だけでは注文量を賄えず、人を雇い入れて生産量を増やした。また、道内の複数の郡の市場に商品を卸す流通網も構築した。

法的には商売が禁じられている逆境の中、商機をのがさず、努力とアイデアで徐々に客を増やしてきた夫婦の姿は、1970年代に日本テレビ系列で放映されていたドラマ『細うで繁盛記』のようだ。

夫婦は大儲けした。国から求められた支援事業に積極的に出資するなど、社会貢献も行っていた。金正恩党委員長が旗振り役となって進めている輸入病(何でもかんでも輸入に頼る傾向)の根絶、国産品開発、愛用キャンペーン、にも沿った行動で、国家から褒められるべき事業と言えた。

(参考記事:北朝鮮、市場経済発展で「町工場」が急増中…中国からの輸入品にも変化

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ところが、地域の保安署(警察署)は昨年11月中旬、夫婦を逮捕したのだ。

その罪とは、月給を渡して人を雇い入れて働かせる資本主義の方式を用い、ニセモノの月餅を作らせたというものだ。その根拠となりうるのが、前述の刑法114条だ。

夫婦と家族全員は11月中旬、村から郡内の炭鉱地区に追放された。取り調べの過程で激しい拷問を受けたようで、追放の際にはまともな状態ではなかったと伝えられている。

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(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

今回の事件に関して現地では、夫婦の月餅製造技術と施設を奪おうとした何者かが、濡れ衣を着せたのではないかとの疑惑が持ち上がっている。また、北朝鮮で手広く商売をするには、関係各所の幹部にワイロを渡し、覚えをよくするのが必須だが、それを怠ったか、別の理由で恨みを買った仕返しの可能性も考えられる。

同じような事件が別の場所でも起きている。

今年7月、両江道(リャンガンド)三池淵(サムジヨン)の都市再開発現場のそばで、売店を営んでいた3人の商人に対して、当局は「カネしか知らない資本主義生活様式にひたり、カネに目がくらみ敵を助ける利敵行為のような非常に危険な行為」と批判し、商品没収、労働鍛錬刑6ヶ月、工事現場での無報酬労働の刑を言い渡している。

(参考記事:北朝鮮が「タバコ屋のキムさん」を目の敵にする理由

長年、大同江ビールの卸売業を営んでいた女性が今年1月、「国家生産品を横流しし、不正に財産を築き、非社会主義的行為を常習的に行ってきた」との理由で逮捕され、全財産を没収の上、平壌から追放される処分を受けた。

(参考記事:「やり手の女性社長」を裸同然で放り出した金正恩政権の謎の動き

金正日総書記は2009年、市場経済を潰し、経済の主導権を国の手に取り戻すために、貨幣改革(デノミネーション)を断行し、新紙幣への交換に限度額を設けて、蓄積された富を紙くずにしてしまった。その結果、多くの人が財産を失い、市場は機能を停止、経済は大混乱に陥ってしまった。商人の中には、絶望のあまり脱北し、韓国に向かった人も少なくないと伝えられている。ちなみに、韓国に入国した脱北者が最も多かったのは、この2009年だ。