国連安全保障理事会で2017年12月22日に採択された制裁決議2397号は、決議から2年以内に雇用している北朝鮮労働者をすべて本国に送り返すことを義務付けている。北朝鮮労働者の受け入れに最も積極的だった中国では、今のところ大きな動きは起きておらず、労働者は普段どおりに仕事を続けている。
北朝鮮事情に精通した中国のデイリーNK情報筋は、北朝鮮労働者たちは期限を控えて中国政府から何らかの発表があるのではないかと息を潜めて待ってはいるが、20日の時点で何ら話はないので普段どおりに働いていると伝えた。
情報筋は、「国際社会が何を言おうとも、中国さえ耐えてくれれば北朝鮮に帰ることはない」というのが労働者の本音であると伝えた上で、中国とロシアが安保理に制裁の解除を要求する決議案を提出したことを見て希望を持つようになったと明かした。
中国とロシアが16日に安保理に提出したのは、制裁の一部緩和を呼びかけるもので、その中には、海外で働く北朝鮮労働者を22日までに送り返すという規定を無効にすることも盛り込まれている。
また北朝鮮は、中国地方政府の黙認のもとで「派遣しているのは労働者ではない」作戦で、制裁回避にやっきになっている。それについて、中国で北朝鮮労働者を管理する立場にある北朝鮮の幹部が詳しく説明した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面中国は、制裁が採択された直後の2018年上半期から、北朝鮮国民に対する労働ビザの新規発給を行わないようになった。それを受け、北朝鮮は労働者の派遣を減らしたが、同年下半期からは「労働者ではない資格で労働力を派遣する」形を取るようになった。
その方法とは、自国内の工場に所属する労働者がより高い技術を学ぶために、外部の学校や機関で学習するという「技術学習生」、つまり北朝鮮版技能実習制度の悪用だ。また、留学生として派遣して働かせるという方法も取られている。遼寧省の丹東、瀋陽、吉林省の図們、琿春の工場やレストランへ労働力を派遣しているが、中国の地方政府はこれを黙認している。
(参考記事:【写真】金正恩氏の新たな商売「女子大生派遣ビジネス」の現場)北朝鮮は今年に入ってから労働者の数をむしろ増やした。情報筋によると、2018年に琿春にいた北朝鮮労働者は1万人未満だったが、今年に入ってから1万3000人を超えたと伝え、「制裁で全員が帰国させられることを考え、むしろ最大限に送り出した」というのが北朝鮮の目論見だと解説した。
(参考記事:「技能実習制度」を悪用し労働者を中国に派遣する北朝鮮)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
今年に入ってからは、渡江証や訪問証と呼ばれる臨時のパスポートを持って中国に入国し働く手法が取られるようになった。中国の滞在ビザがなくとも、1ヶ月から3ヶ月の滞在が認められるもので、期限が来てもいったん北朝鮮に戻って延長申請をすれば滞在の延長が認められる。
しかし、延長を申請する人が一度に数百人単位で押しかけ、税関の業務が麻痺してしまった。また、労働者が一斉に休暇を取ることに対し中国企業から不満の声が上がったことから、中国企業と北朝鮮労働者代表部は、地方政府の黙認のもとで、滞在期間を勝手に1年に延長してしまった。
「安価な労働力を求める中国企業と、できるだけ多くの人員を派遣して外貨を稼ごうとする北朝鮮の利害関係が一致し、中国が労働力を要求すればすぐに派遣している」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一方で中国は、就労ビザを持った人を帰国させている。韓国KBSは、丹東の北朝鮮レストランの従業員の話として、就労ビザを持っている人は17日から順次帰国し、その後は1ヶ月交代で渡江証を持った人がやって来て欠員を埋めるので、レストランの営業には支障がないと伝えている。
(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発)
このように中朝両国は、制裁の対象となる就労ビザを持った「労働者」だけを帰国させ、制裁の対象とならない短期滞在者と技能実習生を働かせている。
この手法を使ったものと思われる、平壌から来た新規の労働者が16日にレストランで働き始めたと、情報筋は伝えている。また、丹東の貿易業者も、米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に、16日に丹東郊外の東港の建築資材工場に150人もの北朝鮮労働者が到着したと伝えている。
「就労ビザなしで働いている人々を、国際社会はいかなる根拠で追放させられようか」(情報筋)
さらには、公務員が公務で海外に渡航する際に使用する公務旅券を労働者に持たせて派遣する方法も登場している。
(参考資料:「公務旅券」悪用を中国が黙認か…北朝鮮が「制裁破り」で労働者派遣)
ただし、懸念材料はある。最も大きなのは米中の貿易紛争だ。米国から圧力をかけられれば、中国は交渉が不利にならないように北朝鮮労働者を突如として全員追放することもありうる。
前述の北朝鮮幹部は「中国も国際社会の圧力を受けたり、米国との衝突が自国に利益がないと感じたら、朝鮮の肩を持って労働者に仕事を続けさせることは出来ないだろう。中国が朝鮮労働者のビザなし労働を黙認していることに米国が抗議すれば、中国も北朝鮮労働者を撤収させるしかないだろう」と述べた。