朝鮮戦争休戦から間もない1955年4月、当時の金日成首相は、朝鮮労働党全体会議で「党員たちの中で階級教養事業をさらに強化することについて」という演説を行った。

「階級教養」とは聞き慣れない言葉だが、つまりは思想教育のことだ。資本主義から社会主義に移行するにあたっての階級闘争に臨むには、革命的な階級としての意識を高めねばならず、そのために地主や資本家階級、あるいは外敵に対する敵愾心を持たしめようというものである。

首都・平壌には2016年6月、朝鮮戦争の開戦記念日に合わせて思想教育の「中央階級教養館」が開館したが、階級教養のメッカとも言うべき場所は、黄海南道(ファンヘナムド)の信川(シンチョン)にある、「信川階級教養館(信川博物館)」だ。

北朝鮮は、朝鮮戦争中の1950年10月から12月にかけて、米軍が当時の現地の人口の4分の1にあたる1万6234人の市民を虐殺したと主張しており、同博物館はそれに関する展示を行っている。

朝鮮半島の他の地方同様に、地主や資本家、キリスト教信者などの右翼勢力と、北朝鮮政権を支持する左翼勢力の争いに、多くの罪なき人々が巻き込まれ命を奪われたというのが実際のところのようだが、真実を語れば朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の戦争犯罪にも触れることになりかねないため、米軍の仕業にしたようだ。

(参考記事:北朝鮮「虐殺博物館」の見学キャンペーンで反米教育

中国の紅色旅遊と同様、思想教育のために多くの北朝鮮国民が訪れているが、外国人観光客の見学も可能だ。

(参考記事:実は近くて普通に行ける、北朝鮮旅行

そんな場所を見学した朝鮮労働党の幹部が、帰り道に交通事故で死傷したが、その責任をめぐり騒ぎになっていると、平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事故が起きたのは今月初めのことだ。朝鮮労働党の平壌市普通江区域委員会のメンバーが、信川博物館を見学した帰りに乗ったバスが、平壌開城間高速道路で事故を起こし、35人のうち3人が死亡し、13人が負傷した。

事故の原因は、飲酒運転だった。

メンバーは、見学を終えた後にみんなで酒を飲んだ。ドライバーにも「1、2杯なら大丈夫だ」と勧めたが、徐々に歯止めがかからなくなったという。

北朝鮮では、急激な車両の増加に伴い交通事故が多発している。

北部の両江道(リャンガンド)では昨年3月、交通事故が多発し、1日で300人もの死者を出す凄まじい事態となった。未舗装の道が季節外れの大雨で凍結したことが主な原因だった。両江道の山道と、国を代表する高速道路を比較するには無理があるかもしれないが、決して良好な状態とは言い難いのも事実だ。

(参考記事:あっという間に300人が死亡…北朝鮮の交通事故が壮絶な理由

金正恩党委員長は2013年に「交通秩序に違反したり交通事故を防ぐため事業を正しく行わない者を厳格に処罰することについて」、2015年には「社会交通安全秩序を破った者を厳格に処罰することについて」という布告文を発表している。飲酒運転が発覚すれば、罰金のみならず、車両の没収、関係者の更迭など、厳罰で対処している。

(参考記事:北朝鮮「重大事故3回でクルマ没収」

しかし、さほど効果は上がっていない。日本や韓国がかつてそうだったように、急激にモータリゼーションが進む時代には、ドライバーの意識がついていけず、交通事故が多発する。飲酒運転についても「ちょっとだけならいい」という意識がまだまだ根強く残っているということだ。

平壌市の党委員会の責任幹部は、「事故はドライバーの不注意によるもの」として、責任をドライバーになすりつけようとしている。それに対して、遺族と負傷者の家族が、ドライバーに酒を勧めた幹部に責任を取れと迫り、原因追求を求めている。それと関係があるかは不明だが、現在調査が行われており、今後処罰が決まるという。

「飲酒した状態でハンドルを握ったドライバーの過ちも大きいが、それを助長したのに責任から逃れようとする幹部の罪も決して小さくない」(平壌市民)

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