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最近、日本の都会では養蜂ブームだ。旧社会党本部のあった社会文化会館の屋上に置かれた巣箱から飛び立ったミツバチが、皇居の森などで蜜を集めて返ってくるというものだ。その後、社会文化会館はなくなったが、「皇居周辺蜜」というのはブランドとして定着しているようで、今でも人気を集めている。

都会での養蜂ブームは世界的な現象で、北朝鮮とて例外ではない。北朝鮮の対外向けサイト「曙光」(ソグァン)は、平壌市内での養蜂の様子を伝えているが、その行間からは北朝鮮を覆う生活苦が読み取れる。

平壌市内の中心部、朝鮮中央テレビのすぐ裏手にある牡丹峰(モランボン)区域の興富洞(フンブドン)。そばには高さ95メートルの丘、牡丹峰があり、養蜂に適した地域だ。

18人民班(町内会)のキム・ソクチュさん(64歳)は、4年前から年金生活に入ったが、老後の楽しみとして巣箱を1つ買って養蜂を始めた。ところが、初年度に30キロもの収穫を得たことで、巣箱を5つに増やし、今では10つに増やした。キムさんは「本当に面白い」と語っている。ちなみに「面白み」という朝鮮語には「(金儲けの)うま味」という意味もあるが、生活費をまかなえるほどの収入になっているということなのだろう。

(参考記事:「プライド」が邪魔して困窮…北朝鮮の高齢者たちが生活苦

42人民班のイム・グァンオクさん(56歳)は、40歳のころに大病を患い仕事を辞めたが、夫が買った巣箱で収穫したハチミツをなめて徐々に病状が回復したことから、その翌年から養蜂を始めたという。リハビリのつもりだったが病気が全快し、今では巣箱を30個も持つ大養蜂家となった。病院で薬をもらえばいいのに、なぜハチミツをなめていたのかについて記事は当然触れていない。

(参考記事:脱北者が北朝鮮の医療崩壊の現実を告発「患者の命もカネ次第」

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25人民班に住み、この地で生まれ育ったカン・ミョンスクさん(73歳)は、姑から受け継いだ養蜂の技を活かし、慈江道まで行ってハチミツを集めていたが、家の周囲にアカシア、シュユ、モクゲンジ、山椒などいいハチミツが採れる木が増えたため、わざわざ遠くまで行かなくてもよくなったという。

昨年から養蜂を始めた朝鮮養蜂家協会平壌市委員会のキム・ヒス委員長によると、平壌で養蜂を行っている人は450人近くおり、協会に登録した人は380人に達する。脱北者によると、平壌の郊外にも養蜂を営む人々がいて、巣箱15個があれば、1〜2ヶ月で100キロのハチミツが取れるという。

大聖山(テソンサン)や牡丹峰(モランボン)などで長年養蜂をしてきた人達のノウハウを受け継ぎ、都会でも養蜂を進め、環境に優しいということをアピールしている。

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上部からは「ハチミツの生産量を増やして外貨稼ぎを行え」という指示が下されている。つまり、すべては国際社会の制裁に対応するための外貨稼ぎということだ。ハチミツは制裁の対象になっていないため、問題なく輸出できるのだ。

ところが、中国では北朝鮮産の偽物ハチミツが横行し、イメージはかなり下がってしまった。

(参考記事:北朝鮮「農産物」に偽物と粗悪品が横行…「オーガニック」なイメージが失墜の危機

養蜂ブームは全国的に広がりつつある。

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両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、高山地帯でアカシアや栗の木が多い地の利を生かして、養蜂を営む人が以前から多かったが、最近になって協同農場や企業所、さらには軍部隊や個人まで、養蜂業への参入が増えているとのことだ。

今年5月にアカシアの花が咲いた頃には、気候が安定していたこともあり、アカシアのハチミツの収穫量が良い成績を収めたという。

技術を教わりさえすれば誰にでも始められる仕事で、比較的手もコストもかからず良い儲けになる。春と秋の収穫期にハチミツを収穫すること、ダニが発生しないように燻蒸することなどを欠かさないのに加え、氷点下20度以下になる冬にミツバチが凍え死なないように気をつけることなどが必要だ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋も、両江道に隣接した延社(ヨンサ)で養蜂業に参入する人が増えたと伝えた。巣箱を移動させながらハチミツを取るが、儲かるようで以前は1〜2人1組だったのが、最近は3〜4人1組でやるようになっている。

トウヨウミツバチ(ニホンミツバチはトウヨウミツバチの亜種)の取るハチミツは、薬として高く取引されるが、収穫が年1回で量も少なく、スズメバチの襲撃や病気で全滅してしまうこともあり、管理が難しい。

ただし、競争が激しくなったことで値段が下がり、今ではハチミツ1壺が、トウヨウミツバチなら2万北朝鮮ウォン(約260円)、セイヨウミツバチは1万3000北朝鮮ウォン(約170円)となっており、1年で2〜3割ほど値下がりしてしまった。

ちなみに、インドから中国を経て紀元前1世紀に高句麗にもたらされたと言われている養蜂は、長らくトウヨウミツバチが主流だった。それが、ドイツ人のカナシウス・グゲルゲン神父が1910年にもたらしたセイヨウミツバチに徐々に取って代わられた経緯がある。