北朝鮮第2経済委員会傘下の一部の軍需工場が最近稼動を中断したと、平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えた。軍需工場の稼働中断は異例のことだ。国内では、当局が米国との非核化交渉を巡り、非核化への意思を示すためではないかという噂が立っている。

情報筋は、ベトナム・ハノイで開かれた2回目の米朝首脳会談に前後して、今年2月から小規模な工場が、4月には大規模な工場に至るまで操業を中断したと語った。

第2経済委員会は、朝鮮労働党中央委員会軍需工業部の直属機関で、迫撃砲、小銃、高射銃、弾薬、手榴弾などの通常兵器から生物化学兵器に至るまで、兵器の生産計画、生産、供給をコントロールする機関だ。

傘下には190以上の軍需工場があり、機関銃と迫撃砲を生産する慈江道(チャガンド)の2.8機械工場の場合、所属労働者が1万2千人に達するなど、軍需工場が同国経済に占める比重は非常に大きい。

北西部にある慈江道は、軍需産業の密集地帯として知られている。

(参考記事:【目撃談】北朝鮮ミサイル工場「1000人死亡」爆発事故の阿鼻叫喚

北朝鮮では現在、経済難と電力不足で民生用の工場や企業所が稼動を停止し、電力を優先供給されてきた炭鉱も操業時間を短縮するなどの状況だが、当局は軍需工場の稼働だけは支えてきた。それだけに北朝鮮国内では、制裁で原材料の調達が難しくなったという話や、米国との対話が進むにつれ顔色をうかがって稼働を止めたとの見方など、稼働停止をめぐり様々な憶測が飛び交っている。

北朝鮮の内部事情に詳しい脱北者は、軍需工場の稼働中断は非常に異例なことだと指摘する。

韓国のNGO・脱北者同志会の徐宰平(ソ・ジェピョン)事務局長はデイリーNKの取材に対し、「1990年代半ばの苦難の行軍のとき、電気や資材が不足し軍需工場の稼動を一時的に止めたことがあったが、いくら状況が悪くとも軍需工場の稼働を止めることはほとんどなかった」と述べた上で、制裁により金属関連資材の輸入が難しいことを挙げ「材料不足による一時的な生産停止だろう」と説明した。

一方、北朝鮮で高官を勤めた経験を持つ脱北者は、「金正恩党委員長は今年の新年の辞で、物的資源を経済建設に実利があるように組織しなければならないと述べた」ことを挙げ、「核兵器が完成した状況であるため、他の通常兵器の生産を減らし、軍需経済の人的、物的資源を民間経済分野に投入し始めた可能性がある」と分析した。

自立的経済の潜在力をことごとく引き出し、経済発展の新しい要素と動力を生かすための戦略的対策を講じ、国の人的・物的資源を経済建設に実利が得られるように動員しなければなりません。国家経済活動で中心をとらえて関連部門をもり立て、将来を見通した発展をはかりながら経済の活性化を推し進めなければなりません。

経済活動の効率を高め、企業体が経営活動を円滑に行えるように機構体系と活動体系を整備すべきです。

金正恩氏が発表した「新年の辞」全文より)

一方で、軍需工場の操業停止に労働者たちは困惑している。食糧配給が止まってしまったからだ。

「小さな工場は配給が完全に中断し、大きな工場は月に1回、トウモロコシとコメを7対3でを混ぜて700〜800グラムを支給しているが、いつ途絶えるかわからない状況だ」(情報筋)

特に苦境に追い込まれるのは、慈江道の軍需工場の労働者だろう。軍需工場は国の厚遇を受けており、労働者には充分な食糧配給がなされていた。慈江道は軍需産業が集中している地域で、他の地域との行き来が厳しく制限されている。労働者は「ゆりかごから墓場まで」工場と国に生活のすべてのことを頼ってきた。そのため、他の地域と異なり、商業が発達していない。

他の地域なら、配給が途絶えても市場で購入したり、あるいは市場で商売をして収入を得ることが可能だが、慈江道の場合はそれが難しい。また、他の地方に引っ越すのも困難だ。食糧配給が途絶えれば生きていく術を失ってしまうのだ。

(参考記事:北朝鮮の20代女性が山中で「究極の選択」をした理由

慈江道以外でも、配給が止まれば困るのは同じだ。軍需工場の労働者同様に厚遇を受けてきた保安員(警察官)、保衛員(秘密警察)に対する配給も途絶えがちとなり、食べ物の確保に苦労していると伝えられている。

(参考記事:配給停止で食糧確保に駆けずり回る北朝鮮の警察官

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