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北朝鮮の首都・平壌にある外貨稼ぎ機関の支配人が、置き引きの被害に遭った。ところが、逮捕されたのは加害者ではなく、被害者のはずの支配人だった。

内部情報筋が明らかにした事件の顛末は次のようなものだ。

平壌市内の万景台(マンギョンデ)区域にある外貨稼ぎ機関の支配人は2017年12月、多額の現金が入ったカバンを車に載せて政府機関に向かっていた。貿易で稼ぎ出した利益を国に納めるためだ。その額は、35万ドル(約3850万円)。平均的な4人家族の1ヶ月の生活費が50万北朝鮮ウォン(約6500円)であることを考えると、とてつもない大金だ。

不用意なことにこの支配人は、途中で車を停めカバンを車中に置いたまま、食堂で昼食を取った。食事から戻ってきたところ、カバンがなくなっていたというものだ。

「当局はこのカネの入ったカバンを探すために手段を選ぶなと指示を出した」(情報筋)

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日本の警察庁にあたる人民保安省は、緊急命令を出して捜索に当たったが、見つからなかった。その後、被害者であるはずの支配人を逮捕して取り調べだ。「多額の外貨をネコババしたのではないか」との疑いに基づくものだ。

公式の統計は公表されていないが、北朝鮮では窃盗事件が頻発していると言われている。多額の現金を車に置きっぱなしにする行動が、不自然と疑ったのだろう。

(参考記事:「食べるため」牛泥棒も…北朝鮮、経済制裁で困窮深まる

捜査を担当したのは、人民保安省の予審局。政府高官や党幹部の事件を主に扱う部署だ。予審とは、捜査機関が1次捜査を終えた後、さらなる取り調べ、証拠固めや補強捜査を行い、被疑者を送検する過程を指す。

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予審は刑事訴訟法で通常2ヶ月、特別な場合でも5ヶ月以内で終えると規定されているが、この支配人に対する予審は1年半に及んだ。

本人は「健康状態が非常に悪い」(情報筋)とのことで、劣悪な環境での勾留に加え、取調べ過程での暴言、拷問を受けた可能性も考えられる。複数の脱北者も、未解決事件の予審は過酷で、まる2日眠らせずに暴行や拷問を加えると証言した。

(参考記事:北朝鮮、脱北女性を拷問した将校を厳重処分…人権問題を意識か

過酷な予審にも、支配人の供述は一貫したもので、支配人が外貨を隠したという証拠も供述も得られず、事件は迷宮入りの様相を呈している。

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予審局の担当者は、捜査をしても結論が出ない非常に珍しい事件だと言っているとのことだ。このまま終わらせるわけにもいかないようで、見せしめとして支配人が処罰されるだろうと情報筋は見ている。つまり、被害者が処罰されるということだ。

金正恩党委員長は、国際社会の制裁で外貨不足に陥っている中でも、三池淵(サムジヨン)郡の再開発と元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区の建設工事を強行している。そんな中での35万ドル紛失は非常に痛い。是が非でも取り戻そうとするのは、ある面で当然のことだろう。

一方で情報筋は、別の横領事件について伝えている。

平城(ピョンソン)のモランボン時計工場では今年4月、支配人と会計課長が数千ドルの国の資金を横領した容疑で予審を受け、送検されたと別の情報筋が伝えている。

モランボン時計は北朝鮮では知られたブランドだが、資材の不足で生産ができなくなったため、中国からカツラ、宝石加工、変圧器のコイル巻きなどの仕事を受注し、細々と運営してきたが、2人は、そうやって稼ぎ出した利益のうち、国に納める5000ドル(約55万円)を、書類を偽造して横領、生活費に使ったという。