今の北朝鮮で大きな富を得るために最も手っ取り早い方法は、不動産への投資だ。住宅建設予算が不足している政府は、高級幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)からの投資に頼って高層住宅を建設し、その見返りに分譲権などを分け与える。そうして住宅を販売することで、莫大な利益が得られるという仕組みだ。

金正恩党委員長は、平壌市内のタワーマンション団地に加え、中国との国境に面する新義州(シニジュ)全体を再開発するという巨大プロジェクトをぶち上げた。これには高級幹部やトンジュを儲けさせることで、自身への支持を取り付けようとする目論見があるものと推測されている。

(参考記事:金正恩氏の「都市再開発メガプロジェクト」発表で不動産価格が急騰

ところが最近になり、平壌と新義州の新築高級マンションの値段が急落している。米朝首脳会談が物別れに終わったことが大きく影響しているほか、それ以外の要因も複合的に絡んで、不動産価格を押し下げている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

先週末に中国にやってきた平壌市民はRFAの取材に大使、平壌の高級マンションが販売不振に陥り、価格が大幅に下がっていると述べた。

平壌市民が最初に挙げた理由は、需要を充分に予測できていなかったことだ。韓国国家情報院の推測では、5万ドル(約556万円)から10万ドル(約1112万円)の資産を持ったトンジュの数は全人口の約1%にあたる24万人。そのすべてが高級マンションを買えるわけでもなく、買うだけの余裕のある層とて、2戸目を買うことは容易ではない。それにもかかわらず、過剰な供給が行われているのだ。

次に挙げられたのは、米朝首脳会談が物別れに終わったことだ。国際社会の制裁解除に大きな期待が寄せられていたが、それが実現しなかったことが、投資家の心理を萎縮させている。

それらに加えて、購買力のあるトンジュや幹部が、さらなる値下がりを期待して買い控えしていることで、悪循環に陥っている。

情報筋がもう一つ挙げたのは、金正恩氏が行っている不正腐敗との戦いだ。

「数万ドルのマンションを複数買ったら、資金の出処について保衛部(秘密警察)に疑いを持たれるのは明らかなので、金持ちの幹部は購入をためらっている」(情報筋)

金正恩氏は「出処を問わずに個人資産を不動産に投資させよ」「利益も最大限保証せよ」という指示を下し、不動産市場を活性化しようとしていた。多額の資産を持っているだけで保衛部から目をつけられる状況に歯止めをかけた形だが、それが不正腐敗との戦いでチャラになったというわけだ。

(参考記事:北朝鮮で不動産投資ブーム 新興富裕層が公共建物を買い占め

不動産市場の不況は地方も同じだ。

新義州(シニジュ)の情報筋によると、あまりにもマンションが売れないので、損切りのため原価を下回る価格を提示しても売れない有様だ。4万ドル(約445万円)で購入し、5万元で内装工事を行った100坪、築2年足らずの高級マンションを4万ドルで売りに出している人もいる。

貿易都市の新義州は他の地方都市と比べてかなりリッチだとは言え、平壌ほどではない。そのため、数万ドルの資金を投入して高級マンションを買える層は限られているのに、供給が続いているのである。

「ハノイでの2回目の米朝首脳会談が失敗に終わった後、制裁が解除されるのは無理だろうという話が急速に広がり、金持ちの消費心理の冷え込みが目に見えて明らかになっている」

このような状況は、当分の間続くだろうと情報筋は見ている。

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