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北朝鮮を訪れる外国人観光客の数は、2015年の推計で年間約10万人。昨年来の中国人観光客の急増ですでに10万人を超えているとの推測もある。

にわかに巻き起こった中国での北朝鮮観光ブームだが、ある理由から、その行く末に暗雲が立ち込め始めた。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

中国吉林省延吉の情報筋は「春の観光シーズンを迎えて北朝鮮観光についての問い合わせが多く寄せられている」と明らかにした。その問い合わせ内容というのは「『アリラン』のような大型公演をまた見れるのか」というものだ。

ここで言われている「アリラン」とは、かつて北朝鮮で行われていたマスゲームのタイトルだ。5年の休止期間を経て「輝く祖国」にタイトルを変え、昨年復活したが、中国では未だに「アリラン」として知られているもようだ。

「10万人の子どもや青年が出演する『アリラン大型祝祭』公演は、世界で唯一、北朝鮮でしか見られない名物に選ばれている」(情報筋)

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昨年の北朝鮮観光ブームの立役者は、このマスゲームだったということだ。中国初の北朝鮮ツアーは4泊5日、5泊6日で6000元(約10万円)前後と決して安くはないが、「マスゲームを見れるなら安いもの」ということなのだろう。

(参考記事:急増する中国人観光客を「軍用装備」で輸送する北朝鮮

実は中国でも文化大革命の時期に、日本の国民体育大会にあたる全国運動会の場で「団体操」と呼ばれるマスゲームが行われ、最大で2万3000人が参加した。今では大規模なものが行われなくなったこともあり、中国の中高年層にとって北朝鮮のマスゲームはノスタルジアを刺激するもののようだ。

(外部リンク:1975年の第3回全国運動会のマスゲーム

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そんな中国人観光客に大人気のマスゲームだが、今年は行われないことになった。情報筋が明かすその理由は「人権問題」だ。

「北朝鮮当局が『アリラン公演』を終了させ、観光品目から除外したのは国際社会から提起された様々な疑問のせいだ」(情報筋)

国際社会からは、多数の青少年を勉強そっちのけでマスゲームに動員することは、人権侵害だとの指摘がなされている。また、長時間に及ぶ過酷な練習が、子どもたちの健康に深刻な影響を与えているとの指摘もある。

(参考記事:「マスゲーム後遺症」に北朝鮮の子供たちが苦しむ

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北朝鮮は、国際社会からの人権侵害の指摘について表向きは強く反発するものの、内心ではかなり気にしているようで、保衛員(秘密警察)や保安員(警察官)の人権侵害にあたる行為を禁じたり、違反者を処罰したりしている。マスゲームの中止も、そんな北朝鮮なりの人権問題への対処の表れとも言えよう。

(参考記事:「もしかしたら人権侵害かも…」庶民の逆襲を恐れるようになった北朝鮮の警察官

マスゲームは重要な政治行事であると同時に、中国人観光客を誘致するという一石二鳥のビッグイベントで、そんな当局の目論見が大成功した事例だ。しかし瀋陽在住の朝鮮族の情報筋によると、そんなマスゲームが行われないとの話が広がり、ツアー申し込みは当初の予想より低調だという。

北朝鮮チームが昨年の平昌冬季オリンピックのときに披露したテコンドーの模範演技を目玉にしようとしているが、消費者の反応は鈍いようだ。

これで、北朝鮮の観光業はお先真っ暗かと言えば、そういうわけでもない。金正恩党委員長は巨大リゾート計画、元山葛麻(カルマ)海岸観光地区の建設を進めているが、そのような人工的なものでなくとも、北朝鮮の観光業は高いポテンシャルを秘めている。

北朝鮮には白頭山、金剛山などの五大名山があるが、あまり知られていないところとして蓋馬(ケマ)高原がある。2000メートル級の山が連なるこの高原地帯は、本格登山から山歩きに至るまで様々な楽しみ方ができる「東洋のアルプス」とも言われ、やり方次第でエコツーリズムのメッカとなるのは決して夢物語ではないだろう。

(参考記事:「15万人の血と涙」で建設が進む金正恩氏の「ブラック・リゾート」