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中国では、1997年の広州を皮切りに、各地でガソリンで走るオートバイの運転を禁止するようになった。深刻化する大気汚染がその理由だ。それに代わって登場にしたのは電動バイクだ。

中国で売られているモーター付き自転車(モペッド、バタバタ)は、日本の電動アシスト自転車とは異なり、最高時速が25キロにもなる。値段は800元(約1万3000円)から4000元(約6万5000円)、折りたたみ自転車のようなタイプからスクータータイプまで様々なものがある。街のいたるところにコイン式の充電器が設置されていて、1元(約16円)から急速充電可能だ。

このような電動バイクが北朝鮮でも人気を博しているが、どういうわけか当局は規制に乗り出した。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、道内の徳川(トクチョン)市当局は、一昨年から免許証なしに電動バイクに乗ることを禁じる布告を出し、取り締まりを行っている。これは、現地の電力事情によるものだ。

市内の一般家庭にはほとんど電気が供給されていない。多くの家庭はソーラーパネルを設置して電気を賄っているが、経済的に余裕のある人は、ワイロを払い勤め先から電線を引っ張ってきて自宅で使っている。

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「工場の支配人に2万北朝鮮ウォン(約260円)、電気を管理する人に1万北朝鮮ウォン(約130円)のワイロを払えば1ヶ月間電気が使えるようになる。使える時間は決められておらず、工場に電気が供給されれば、自宅でも電気が使えるようになる」(情報筋)

盗電とも言えるこのような手口は、全国的に行われているものだ。

(参考記事:【北朝鮮国民インタビュー】「国が電気を供給してくれていた時代に未練はない」

ところが、この電気を使って電動バイクを充電する人が現れ、ただでさえ不足している電力がさらに逼迫する結果を生んでしまったため、当局が取り締まりに乗り出したというのだ。ちなみに、ソーラーパネルでは電動バイクを充電するだけの電気を作るのは非常に難しいとのことだ。

(参考記事:北朝鮮の庶民の夢「ソーラーパネルを買って韓流ドラマを見たい」

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「免許を取れ」という指示に従って手続きをしようとしても、市当局の姿勢は「元気な人は電動バイクに乗るな、老人や栄誉軍人(傷痍軍人)だけ乗れ」(情報筋)というものだ。ワイロの相場は3万北朝鮮ウォン(約390円)だが、払っても免許を出し渋るのだという。

だからと言って、無免許での運転を続ければ、電動バイクを没収されてしまうこともある。電動バイクは1台50万北朝鮮ウォン(約6500円)から600万北朝鮮ウォン(約7万8000円)と価格も様々だが、非常に高価であることには違いなく、取り上げられてはたまらない。

このような取り締まりだが、全国的に行われているものではないようだ。

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両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)の情報筋は、電力事情を理由に電動バイクを取り締まるという話は聞いたことがないと証言する。また、現地には電動バイクの免許証というものすらないようだ。首都平壌でも電動バイクを使われている様子が外国メディアのカメラに捉えられている。

では、なぜ徳川では取り締まりが行われているのか。平壌や恵山と比べて電力事情がさらに劣悪だからだ。

「電気がよく供給されているのは、国境地域や平壌などの大都市だけだ、徳川はエネルギーを生産しているのに、電気をくれない」(情報筋)

徳川を中心とした地域は北朝鮮随一の炭鉱地帯で、国内全域に石炭を供給している。ところが、地元はその恩恵に預かっていないということだ。周辺には20万キロワット級の火力発電所が2ヶ所ある。石炭が供給されていないのか、設備が老朽化しているのかは不明だが、地域の電力をまかないきれていないようだ。北朝鮮の人々を数十年に渡って苦しめ続けている電力難は、自力更生で解決するのは難しく、外国からの支援に頼るしかないと思われる。

韓国は、国連安全保障理事会の制裁委員会での承認という条件付きながら、北朝鮮での発電所の新設、または既存施設の改良を検討している。中国は同委員会の承認を得て、水力発電所の建設を行っている。

(参考記事:北朝鮮の深刻な電力難、中国の支援で緩和か

「地域限定」の取り締まりの理由としてもうひとつ考えられるのは、地方政府のカネ儲けだ。税金制度の存在しない北朝鮮だが、地方政府は中央から予算の支援が得られないため、独自に「税収」を確保する必要がある。

そこで、商人から市場管理税を徴収したり、市民から「忠誠の資金」などと称して金品を供出させたりするが、それ以外にもタクシー会社を営んだり、商店に名義貸しをするなど、様々なビジネスを行っている。電動バイクの免許制度も、徳川市が収入を得るために行っていることが考えられる。

(参考記事:タクシーの「上納金」を公共予算に当てる北朝鮮の地方政府