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一触即発の危機から一転、和平ムードに包まれている朝鮮半島。その立役者の一人である北朝鮮の金正恩党委員長は「好戦的な得体の知れない独裁者」という自らのイメージを変えることにある程度成功した。しかし、世界最悪とも呼ばれる人権侵害国家に君臨する独裁者であることに何ら変わりはない。

そんな北朝鮮で、ある男性が他の国では罪に問われないような罪状で逮捕され、ひどい拷問の末に死亡する事件が起きた。

事件が起きたのは、中国との国境に面する両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)市にある両江道保衛局(秘密警察)だ。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、73歳のホさんは今月初め、ブローカーの助けを借りて、脱北して韓国に住む家族と携帯電話で通話を行っていたところを、保衛局反探課の要員に現行犯逮捕された。ブローカーの密告によるものだった。

北朝鮮は2015年改正の刑法の222条で、「違法に国際通信を行った者は、1年以下の労働鍛錬刑または5年以下の労働強化刑に処す」との条項を新設し、韓国や中国など海外と許可なく通話した人に対する取り締まりを強化している。

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しかし、取り締まり権限を振りかざしてワイロを搾り取るのが、北朝鮮の役人の常。携帯電話ブローカーは、定期的に保衛局にワイロを収める代わりに安全を保証してもらっていたものと思われるが、その関係も保衛局の匙加減一つでいくらでも変わりうる。

(参考記事:金正恩氏も崩せない、秘密警察と送金ブローカーの共生関係

ブローカーが顧客であるホさんを保衛局に売り渡した理由は、定かではない。考えられるのは、ブローカーが保衛局に弱みを掴まれ密告を強いられたか、保衛局が上部から取り締まりの実績を上げるように指示されたかだ。

連行されたホさんは、戒護員(留置担当者)のキム(22歳)から、20キロの重さの棍棒で顔を殴られるなどの暴行を繰り返金正恩氏し受けた。情報筋は言及していないが、取り調べの過程においてもホさんが拷問を受けていたものと思われる。ホさんは食事も取れないほど衰弱した。

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逮捕から17日経った今月20日。保衛局捜査科での取り調べを受けたホさんは、留置場に戻る途中にキムから「階段でひざまずいて手を後ろに回した状態で待機しろ」との命令を受けた。しかし、命令に従わなかったとの理由でキムはホさんの頭部を棍棒で殴打した。ホさんはその日のうちに亡くなったという。

知らせを聞いたホさんの家族は保衛局に向かい「遺体だけでも返して欲しい」と要求したが、保衛局は「反逆者を葬る土地はこの国にない」との理由で引き渡しを拒否した。

家族は「違法越境(脱北)したわけでもないのに、いくら罪を犯したからと言っても、遺体は遺族に引き渡すのが筋ではないか」と抗議したが、「お前らも反逆者になりたいのか」と脅して追い払ったという。ホさんの遺体は、月に1回行われる「反逆者共同火葬場」で、他の人の遺体とともに火葬されたと伝えられている。

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北朝鮮の刑事訴訟法は6条で「国は刑事事件の取り扱い、処理において人権を徹底して保障する」と謳っているが、暴力と拷問が蔓延しているのが実情だ。

韓国の統一研究院が今年4月に刊行した「北朝鮮人権白書2018」は、「北朝鮮には刑法と刑事訴訟法の(拷問禁止の)規定があるにもかかわらず、刑事事件の処理過程で拷問や非人道的処遇が頻繁に発生し、被疑者の尋問において自白を引き出すための手法の一つとして拷問の使用が確立するなど、拷問が蔓延している」と指摘している。

(参考記事:殺人・拷問・強姦…金正恩氏の「極悪警官245人」の手配書

もっとも、人権侵害を行う側とて安全とは言えない。北朝鮮の人々も時には、怒りの鉄槌を下す。取り締まりのやり方が過酷だったり、権力をかさに着たワイロの要求が執拗だったりする保安員(警官)らが、待ち伏せされて殴打されたり、殺されたりする事件が多発している。

(参考記事:妻子まで惨殺の悲劇も…北朝鮮で警察官への「報復」相次ぐ