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北朝鮮には「住民登録制度」なるものが存在する。これは、日本の住民票のように、単に自分の住んでいるところを行政に届け出るという類のものではなく、一生をその土地に縛り付けるもので、中国の戸籍制度と似通ったものだ。

住所や成分(身分)は親から受け継ぐことになっていて、変更は原則として不可能だ。特に農村から都会への移住は難しく、大卒エリートなどが就職などの理由で一時的な居住承認を得ることはできても、住所(本籍)を変えることも、首都・平壌や新義州(シニジュ)、恵山(ヘサン)などの国境地帯の居住権、市民権を得ることも難しい。

とりわけ平壌に移住しようとすれば、組織移動証、労働手帳、食料配給停止証明書など様々な書類を提出し許可を得た上で、さらに中央による出身成分(身分)などの厳しい審査を経てなければならない。

平壌に転がり込めたとしても、安心はできない。当局は様々な理由で平壌から人を追い出そうとしている。かつて、障碍(しょうがい)を持った人々とその家族が多数追い出されたことがあった。「障碍者が革命の首都平壌にいると、外国人に不快な印象を与えるから、追放せよ」という金正日総書記の指示に基づくものだ。

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平壌を囲む高い壁を飛び越えるのに必要となるのは「カネ」と「コネ」だ。トンジュ(金主、新興富裕層)は、その都市の不動産に莫大な投資をしたり、新たなビッグビジネスを始めたりすれば、権力者から市民権を得られるというわけだ。

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平壌に住むには5000ドル(約55万3000円)とも言われるワイロが必要だが、平壌郊外にある平安南道(ピョンアンナムド)平城(ピョンソン)も事情は似通っている。

平安南道のデイリーNK内部情報筋によると、平城の市民権の「相場」は平均1500ドル(約16万6000円)だ。巨額のワイロを支払って市民権を得た人は2016年と2017年の2年間で、1万人に達するとのことだ。

かつて北朝鮮では、多くの人が「トウモロコシ粥をすすりひもじい思いをしてでも、平壌にしがみつく」と言われていたが、平城に住もうとする人も少なくないという。

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国内最大規模の卸売市場があってビジネスチャンスが多く、高速バスで全国各地と結ばれていて、平壌までもバスで1時間ほどだ。それに、平壌のように統制が厳しく、商売しづらいこともなければ、運悪く取り締まりに引っかかって山奥に追放されるおそれも少ない。

平城のように市場経済の最先端を行く都市では、常に労働力が必要とされている。だが、当局者は経済発展のための労働力供給が必要ということを認めつつも、居住統制を緩和する政策の導入には踏み切れずにいる。

市民権を持ったからと言って、安心できるわけではない。集中取り締まりに引っかかり、追放されてしまうおそれがあるからだ。そうなれば、築き上げてきた生活の基盤が一瞬のうちにして崩壊してしまう。

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貧しい農村を捨てて、カネ儲けのチャンスがある都会に向かう人たちが増えているが、当局は事あるごとに追放して農村に送り返している。しかし、ほとぼりが冷めるとまた戻ってくるだろう。人の流れを人為的に押し止めることはできないのだ。