北朝鮮の金正恩党委員長は最近、李雪主(リ・ソルチュ)夫人とともに新義州(シニジュ)化粧品工場の視察を行った。化粧品工場の視察はこれが初めてではない。

(参考記事:金正恩氏、化粧品工場を視察…中朝国境都市で

2015年2月と昨年10月には平壌化粧品工場を視察するなど、人民愛と軽工業発展のシンボルとしての化粧品に関心を注いでいることがわかる。

(参考記事:正恩氏が執着する化粧品ブランド名に隠された「愛のメッセージ」

北朝鮮の商人たちは、金正恩氏が化粧品に注ぐ愛に、偽物を作ることで答えている。

米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)の平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、新義州の商人たちは、新義州化粧品工場製の「ポムヒャンギ(春の薫り)」ブランドの化粧品の偽物を販売している。これがタダの偽物ではない。

中国から化粧品の原材料を輸入する人、化粧品を製造する人、市場で販売する人などが存在する。そこに、新義州化粧品工場で勤めていた技術者が加わり、組織的に正規品と遜色ない巧妙な偽物を作り上げる。化粧品は肌に直接使うものだけあって、少しでも質に問題があれば売れなくなってしまうため、技術者に監修してもらうのだ。

北朝鮮製の化粧品「ポムヒャンギ」(春の薫り)
北朝鮮製の化粧品「ポムヒャンギ」(春の薫り)

それだけにとどまらない。彼らの作った偽物化粧品を全国に流通させるネットワークも存在するというのだ。情報筋は、大口のトンジュ(金主、新興富裕層)が関わっているわけでもないのに、かなりのカネが動いていると見ているが、ここまで大規模で組織的な動きであることを考えると、決して的外れな話ではないだろう。

市場を訪れる女性たちは、これが「8.3製品」(偽物)であることを知りながらも、正規品と変わらない品質の高さに惹かれて買ってしまう。評判が評判を呼び、売れ行きはどんどん伸びているとのことだ。

ちなみに「ポムヒャンギ」ブランドの正規品は非常に人気が高く、製造元の新義州化粧品工場は、売れ行き好調を受けて、長らく中断していた従業員への食糧配給を再開したほどだ。

(参考記事:市場とタッグを組んで儲ける北朝鮮の国営化粧品工場

実際、平安南道の貿易関係者も「北朝鮮を代表する化粧品といえば、平壌化粧品工場のウンハス(銀河水)よりも、新義州化粧品工場のポムヒャンギ」だと語る。しかし、問題は価格だ。

「化粧品セットは、卸売り価格でも70ドル(約7700円)もするため、元帥様(金正恩党委員長)からの贈り物や、平壌百貨店での販売用として使われている」(貿易関係者)

金正恩氏は、新義州化粧品工場を視察した際に「平壌市内に『ポムヒャンギ』ブランドの化粧品を販売する専門ショップを開設せよ」との指示を下したが、これについてこの貿易関係者は「大衆受けを考えたものではなく、平壌の中間層向けの販売戦略の一つだろう」と見ている。

「偽物でも質が充分いいのに、誰がわざわざ倍もする正規品を買うのか」と述べたこの関係者は、専門店について「中国からの投資を誘致しようとしている」という意図が隠されていると指摘した。化粧品工場の視察も、それを念頭においたものである可能性がある。

1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」から、2009年の貨幣改革(デノミネーション)にかけて、北朝鮮経済は大混乱に陥り、多くの国営工場は原材料、エネルギー不足で操業を停止してしまった。

そのスキに北朝鮮市場を占領したのが中国製の製品だが、完成品を輸入するより原材料の輸入して自国内で加工した方が儲かることに気づいた多くの人が、自宅を改造したり国営工場の設備を借りたりして、商品の製造を始めた。お菓子やタバコに始まり、靴、衣服など様々なものを製造、販売し、競争に勝ち抜いてきた。そこで蓄積されたノウハウが、偽物化粧品にも生かされているのだろう。

(参考記事:北朝鮮、市場経済発展で「町工場」が急増中…中国からの輸入品にも変化