かつて、北朝鮮の公共料金はタダ同然だった。

北朝鮮当局が定めた料金体系によると、月々の一般的な電気料金は33北朝鮮ウォン。日本円で1円にもならない激安料金は、計画経済が曲がりなりにも機能していた時代の名残だ。

北朝鮮当局は昨年、他の国でも使われているような電気メーター(電力量計)を各家庭に設置し、使用量に応じた電気料金を徴収する方針を示した。しかし、住民を半ば脅迫しながら推進したにもかかわらず、1年経っても設置は進んでいない。

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最近、中国を訪問した平壌の情報筋が米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると、市内の電気メーター設置率は1割にも満たないという。その理由は、設置費用にある。

「平壌の電気メーター設置実績が不振なのは、30ドル(約3270円)以上もするメーターを住民負担で買わされるからだ」

デイリーNKジャパンの調べでは、中国最大のオンライン通販サイト「タオバオ」では、最安値の電気メーターなら1台わずか12元(約200円)だ。それなのに北朝鮮当局は、メーター設置費用として24万北朝鮮ウォン(約3120円)を徴収しようとしている。

ここから見えてくるのは、中国から電気メーターを安く輸入して、住民に高く売りつけてその差額で儲けようという当局の魂胆だ。

設置が進まない理由は他にもある。多額の費用を投じてメーターを設置しても、電気が優先供給されるなどのプレミアがないのだ。また、使用量に応じて電気代を払うことになれば、実質的には大幅値上げとなる。

別の情報筋によると、1キロワットあたり0.12北朝鮮ウォンだった電気料金は35北朝鮮ウォン(約0.45円)に、100キロワットを超えると350北朝鮮ウォン(約4.5円)になった。つまり、290倍〜2900倍の大幅値上げだ。

北朝鮮の一般家庭は、他の国のように家電製品が溢れかえっているわけではない。また、停電が多いため、発電用のソーラーパネルを購入、使用している人も多い。そのため、電気使用量が100キロワットを超えることはあまりないかもしれない。それでも、大幅値上げであることには変わりない。

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当局は「応じなければ、電気料金の10倍の罰金を科す」と脅迫したり、なだめたりしているが、効果は上がっていないもようだ。

北朝鮮第2の都市、咸興(ハムン)では電気メーターの設置開始が平壌より遅れたが、全く進んでいない点では似たり寄ったりだ。

現地情報筋によると、電気メーターを設置しようとする人は、ほぼいないと言っても過言ではない状況だ。そこで当局は、人民班(町内会)単位でメーターを設置し、電気料金を住民に割り振るという苦肉の策を取っている。

人民班長(町内会長)は、どの家がどんな家電を持っているかを把握し、それを考慮して電気料金を割り振るが、料金を押し付けられた住民の不満は強い。しかし、人民班長との関係がこじれると今後の暮らしに様々な問題が生じかねないため、嫌々ながらも料金を払っている。

ここまでやっても設置率は5%以下だ。多くの庶民には、そんな経済的余裕はないのだ。

そもそも、一連の措置を始めたのは金正恩党委員長だ。電気料金が極端に安いから、国民が節約しようとしない――このような理由を挙げ、電気メーターの設置を指示したとされる。以前、金正日総書記も同様の措置を取ろうとしたが、うやむやになってしまった。

電気料金は本来、多少の軽減措置はあるとしても、原則は受益者負担だ。しかし、当局はまともな電力供給も行えないのに、料金を値上げするばかりか、電気メーターを自己負担で設置しろと要求する。こうなると、「どうせまた、庶民から小銭を巻き上げようという魂胆だろう」(情報筋)との不満が吹き出すのは、むしろ当たり前のことと言えよう。