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6月12日にシンガポールでの開催が予定されていた米朝首脳会談は、トランプ米大統領がいったんは「中止」を通告したものの、その後に北朝鮮側が発表した談話に同氏が「歓迎」の意を表明したこともあり、実現の可能性が残された状態となっている。

26日に韓国の文在寅大統領と金正恩党委員長との2回目の首脳会談が電撃的に開催されたことも、今後に期待を持たせる要素と言える。

ただ、仮に米朝首脳会談が実現したとしても、そこでわれわれが見ることが出来るのは、非核化や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の廃棄に関する「大筋合意」にとどまる可能性が高い。非核化やミサイル廃棄の科学的・政治的検証の過程は複雑にならざるを得ず、その方法を詰めるための実務者対話は難航を極めることが想定される。

実際、北朝鮮のある高官は「廃棄された北部核実験場のほかにも、小型化された核兵器の実験に使える施設がほかにもある」「8月までには戦争準備が完了する」などと語っている。

(参考記事:「8月までに戦争準備が完了する」北朝鮮幹部が語る

もっとも非核化に関しては、これこそが米国との対話の柱でもあり、北朝鮮側がかなり踏み込んだ検証に応じる可能性もある。北朝鮮には豊富なウラン資源があり、技術情報さえ隠匿することができれば、いつかまた作ることも不可能ではないからだ。

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一方、弾道ミサイルはどうか。こちらも技術情報があれば、いったん廃棄してもまた作ること自体は可能だろう。しかし、地中に埋まった発射基地や移動式発射台のようなインフラを根こそぎ廃棄させられてしまったら、再び戦力化するには膨大な時間とコストがかかるし、生産設備も大規模になるため、米軍の偵察衛星の監視を逃れるのも難しい。

そもそも、北朝鮮側が対米交渉のカードとして考えているのは核兵器とICBMだけであると見られ、短・中距離弾道ミサイルについては自衛用として保持したいところだろう。

そう考えると、北朝鮮側が米国に対し、ミサイルの配備情報をすべて伝えるとは考えにくい。実際、北朝鮮の内部情報筋によれば、「米国を攻撃できるICBM『火星15』型は、全国120カ所に配備されている」という。またある北朝鮮の高官筋は「中距離クラスの『火星10』型固体燃料ミサイルは、すでに2度の打ち上げに成功して配備が完了した」「ICBMの『火星13』型も15基製造され、平安北道の雲田と亀城の地下基地に隠されている」などと語っている。

(参考記事:「米国はわが国のICBMを見つけられない」北朝鮮高官

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こうした情報の真偽を確認するのは極めて難しいが、北朝鮮の弾道ミサイルの配備状況については、米国ですらほとんど把握できていないと言われる。そもそも、多大な犠牲を払って手にした核戦力を、「北朝鮮がそう簡単に手放すはずはない」と見る向きは大きい。

(参考記事:【画像】「炎に包まれる兵士」北朝鮮 、ICBM発射で死亡事故か…米メディア報道

また、金正恩氏の用心深さを考えただけで、弾道ミサイルを廃棄させるのがどれほど難しいかは想像できようというものだ。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

筆者もまた、米朝首脳会談の開催に期待を持っている人間の1人だ。しかし、そこで何かが解決されるわけではないということは、誰もが厳しく認識すべき現実なのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記