北朝鮮は24日、咸鏡北道(ハムギョンブクト)吉州(キルチュ)郡の豊渓里(プンゲリ)にある核実験場を爆破した。しかし、デイリーNKジャパンのカン・ナレ記者が担当からレポートしたところでは、北朝鮮政府のある幹部は20日、この実験場について、「すでに廃棄されていたもの」だと指摘。爆破については「金正恩時代の核戦略システムの完成を宣言するイベントでしかない」と述べたという。
たしかに、多大な犠牲を払って手にした核戦力を、「北朝鮮がそう簡単に手放すはずはない」と見る向きは大きい。(参考記事:【画像】「炎に包まれる兵士」北朝鮮 、ICBM発射で死亡事故か…米メディア報道)
この幹部によれば、北朝鮮には豊渓里のほかにも、小型化された核実験に使える施設があるという。それと目されているのは、江原道(カンウォンド)板橋(パンギョ)郡の梨上里(リサンリ)から、隣接する黄海北道(ファンヘブクト)谷山(コクサン)郡の新谷(シンゴク)貯水池(1965年完成)を結ぶ水路だ。
「2013年から朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の部隊が動員されて滅悪(ミョラク)山脈を貫いて建設した」(同幹部)
トンネル水路が山脈を縦に貫いているため、貯水池の水門を閉じて水を抜けば、核兵器の実験ができるという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面さらに、ある朝鮮人民軍筋は「2013年5月に非公開で行われた軍需工業大会で軍事近代化5カ年計画が採択された」「今年8月に完了する軍事近代化5カ年計画の最終課題は、三池淵(サムジヨン)戦時司令部に小型原子炉を設置すること」などと述べたという。
両江道(リャンガンド)三池淵にある金正恩氏の胞胎(ポテ)別荘は、山脈を貫いて建設した地下司令部とつながっている。そこに小型原子炉を設置すれば、それをエネルギー供給源として、金正恩氏の司令部は米国から核攻撃を受けても生き残り、核兵器で反撃する余裕も持てるとのことだ。
普段から、一般の人と同じトイレを使えないなど生活上の苦労を抱えている金正恩氏ならば、戦時に対する備えにも神経質になっていると思われる。
(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
もっとも、ここで述べられているような情報は裏付けを取ることがほぼ不可能であり、どの程度まで信じて良いものか判断に迷う部分が大きい。ただ、北朝鮮の現場の幹部の認識はこういうものであり、その認識に従い、各自が役割を果たしているということだ。
そもそも、米朝対話や南北対話は成功が約束されているわけではない。不調に終わり、情勢がより悪化する懸念もある。そのとき、自分だけが「丸腰」であることを、金正恩氏が簡単に受け入れるとは思えない。
(参考記事:金正恩氏がつい漏らした米韓「斬首作戦」への恐怖心)またこの幹部は、金正恩氏は自身の誕生日である今年1月8日、国家科学院を現地視察したが、その目的は戦時司令部に設置する小型原子炉だったとし、豊渓里核実験場の爆破行事は、核戦略体系の完成を知らせる金正恩式の「宣言式」に過ぎないと強調したという。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。