朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の軍官(将校)たちが、住宅問題で頭を抱えているという。官舎が足りないため、家族と共に暮らせる環境にないのだと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、軍当局は最近、軍官の生活について実態調査を行った。その結果、職務遂行に問題が生じるほど住宅問題が深刻である現状が明らかになった。北朝鮮軍は食糧配給の停滞や「マダラス」と呼ばれる性的虐待の横行など、軍紀が破たん状態にあると言っても過言ではないが、この住宅問題が組織の弱体化に拍車をかけている。(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

まず、官舎に入れる軍官はほんの一握りだ。経済的に余裕がある軍官の場合、部隊の外にある民間人の住宅に居候しているという。

天下の朝鮮人民軍の軍官が居候とは情けない限りだが、問題はそれだけにとどまらない。部隊のそばにある家ならともかく、遠くに離れた家で暮らさざるを得なかったりするため、常日頃から出勤、職務遂行に問題が発生しているのだ。

「部隊の外に住んでいる軍官は、数十里(朝鮮の1里は約400メートル)以上離れたところから通っているが、非常招集がかかっても部隊にやってこなかったり遅刻したりして戦闘準備に支障をきたしている」(情報筋)

家が遠くても、家族と一緒に住める軍官はまだマシだろう。一部の軍官は、一般兵士と同じ兵舎に暮らしているため、家族と離れ離れになっているというのだ。

そもそも家族が同居を嫌がる場合もあるようだ。軍の部隊は都会から遠く離れた山奥に駐屯していることが多く、子どもにきちんとした教育を受けさせようにも、まともな教育施設など期待できない。

また、軍官であっても、給料はほとんどもらえない。現金収入を得るには、市場で商売をするしかないが、山の中に市場があるわけがない。近隣の村に市場があったとしても、非常に小規模で大したカネは稼げない。

それどころか、水道すらなかったりする。

(参考記事:北朝鮮山間部の悲惨な「水事情」…汚染水で皮膚病も

咸鏡南道(ハムギョンナムド)の別の情報筋によると、軍官の住居問題は人民武力省が早急に解決に乗り出すべき問題だが、予算不足でこれと言った対策を立てられずにいる。

そんな状況で軍官の社会的地位はダダ下がりし、結婚相手としても人気がないという。

(参考記事:金正恩氏の「ポンコツ軍隊」は世界で3番目に弱い

朝鮮労働党中央委員会は「問題解決が急がれる、軍官向けの住宅建設計画を立てよ」と各級機関、企業所に指示を出したが、資材が供給されるわけでもないため着手すらできない状況だ。

民間人向けの住宅の場合、政府や軍系列の貿易会社がトンジュ(金主、新興富裕層)や海外の投資家から資金を募り、資材を中国などから輸入して建設を行う。

(参考記事:制裁で凍結の中国資本「北朝鮮マンション投資」に再開の動き

一方、軍官を住まわせる官舎は、投資しても儲けが出る類のものではない。軍官の単身赴任は当面終わりそうになさそうだ。

北朝鮮軍の軍官の暮らしは悲惨なものだが、食べ物を求めて民間人を襲撃する末端兵士よりはマシだろう。こんな状況では、戦争も何もあったものではない。

(参考記事:金正恩氏の兵士たちは、こうして「民間人殺害」に手を染めた

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記