北朝鮮から脱出して韓国入りした脱北者の数は、昨年12月末の時点で3万1339人を数える。その多くが、北朝鮮に残してきた家族に仕送りをしている。

韓国のNGO、北韓人権情報センターが2014年12月に脱北者400人を対象に行なった調査では、59%が「北朝鮮に送金したことがある」と答えた。また、脱北者団体のNK知識人連帯の調査でも、51.7%が「送金したことがある」と答えた。米国務省が2014年に発表した報告書によると、脱北者が北朝鮮の家族に送金する額は、少なくとも年間1000万ドル(約10億5800万円)に達する。

(参考記事:韓国の脱北者「59%が北朝鮮に送金」 北朝鮮から韓国へ送金するケースも

北朝鮮当局は、海外からの送金を脱北、密輸、覚せい剤、韓流ドラマ視聴などと同じ「非社会主義現象」として、取り締まりの対象としている。しかしその裏では、送金を奨励している実態のあることが明らかになった。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、司法機関の幹部の話として、金正恩党委員長が今年2月、関係当局に次のような命令を下したと伝えた。

「海外送金作業は度を越さない程度なら協力せよ。ただし、その過程で発生した手数料は国庫に納めよ」

金正恩氏の今回の命令により、取り締まりの対象であるはずの海外送金は減るどころかむしろ増えていると情報筋は伝えた。表向きは「取り締まる」と言いつつ、裏で協力するのは、北朝鮮の国家予算が韓国に住む脱北者からの送金により充当されていることが知れ渡ると都合が悪いからだろう。国際社会の制裁でカツカツの状況でも、「武士は食わねど高楊枝」ということだ。

韓国から北朝鮮に送金する際には、銀行の利用ができないため、送金ブローカーに頼ることになる。地元の保衛部(秘密警察)は、ブローカーから一種のみかじめ料を取る代わりに安全を保障し、共生関係を築いてきた。

それでも、保衛部に裏切られ投獄されることもあったが、金正恩氏の命令とあっては、末端の保衛員も幹部もブローカーに協力をするしかない。いや、逆に金正恩氏のお墨付きを得た上でカネをせびることができるようになり、喜んでいるかもしれない。

送金する人、受け取る人にとっても安全性が高まったと言えるが、良いことばかりではない。「手数料は国庫に納めよ」ということは、ピンはねが地元の保衛部と国の二重になることを意味するからだ。実際、昨年まで送金額の30〜35%だった手数料が、今では40〜50%に跳ね上がっているという。

脱北者が、北朝鮮に残してきた家族にせっせと送金することは、家族の暮らしを豊かにするだけではなく、その安全をカネで買うという意味合いもあった。自らの人権を踏みにじる体制から命からがら逃れてきたというのに、そんな体制の維持のために自らのカネが使われるとは皮肉なことだ。