北朝鮮は1997年、国際人権規約(B規約)からの脱退を国連に通告した。自由権規約委員会から人権改善勧告を2度にわたって受けたことに対する反発からだった。北朝鮮は、脱退はしても規約に定められた権利は保障すると表明していた。脱退は受け入れられなかったため、翌年撤回したが、規約により定められた人権に対する侵害は続いている。
そのひとつが移動の自由の権利の侵害だ。同規約の12条は「合法的にいずれかの国の領域内にいるすべての者は、当該領域内において、移動の自由及び居住の自由についての権利を有する」と定めているが、北朝鮮は全く守っていない。
というのも北朝鮮では、居住する市・郡の境界線を越えて移動するには当局の許可が必要なのだ。なし崩し的な資本主義化により、この仕組みはかなりゆるくなりつつあるが、当局は事あるごとに統制を強化する。最近でも、2月8日の朝鮮人民軍創立記念日(建軍節)を控えて移動が禁じられたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
平壌の情報筋がRFAに語ったところによると、政府は最近になって、住民の移動を禁じる指示を下した。建軍節に行われる閲兵式(軍事パレード)と関連して、事件や事故が起こるのを未然に防ぐのが目的だ。
平壌市のすべての機関、社会団体、人民班(町内会)に対しても、2月末まで長距離移動を禁止すると通達された。その理由が仕事であろうが個人的な事情であろうが、移動する者は厳罰に処すとの内容である。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面遠隔地はもちろん、市内から郊外に行くことすら制限された。そのおかげで平壌市内の商人は、郊外の店への配送ができなくなった。当然、莫大な損害が発生するが、軍事パレードにかける当局の意気込みに尻込みして、「嵐」が通り過ぎるのを首をすぼめて待つしかない。下手に動けば、手が後ろに回りかねないからだ。
ちなみに民間のバスやタクシーのドライバーは、市や郡の境界線上にある検問所の役人に定期的にワイロを渡しているため、遠距離でなければさほど大きな支障なく行き来できる。
(参考記事:数百キロの距離も「鉄道よりタクシーで」…北朝鮮の長距離交通事情)移動禁止令は平壌だけの話ではない。