北朝鮮では、短距離移動はもちろん、数百キロにも及ぶ長距離移動においてもタクシーを使う人が増えている。鉄道より安くて速くて快適だからというのがその理由だが、いったいどういうことなのだろうか。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、タクシーは平壌近郊にある国内最大の流通拠点・平城(ピョンソン)から、咸鏡北道(ハムギョンブクト)や両江道(リャンガンド)など遠く離れた中朝国境地帯まで移動する上で、最も快適な交通手段となっている。

タクシーとは言っても、主に使われているのは15人乗りのマイクロバスで、他の客と相乗りになる。タクシーで長距離移動をする場合に問題となるのは、北朝鮮では移動の自由が厳しく制限されていることだ。日本の都道府県に当たる「道」の境界線を越える手続きは簡単ではなく、境界線をいくつも越えて営業するのはきわめて難しい。

そのためタクシーは、平城から咸鏡北道に客を運ぶ場合、まずは目的地の手前にある咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)に向かう。そこで、咸鏡北道の営業免許を持つタクシーとあらかじめ話をつけて置き、客を引き渡すのだ。

このような「中継プレー」を利用し、平城から咸興経由で両江道の恵山(ヘサン)まで行った場合、運賃は200元(約3460円)。コメを40キロ以上も買える大金だ。一方、これと同じ距離の鉄道運賃は1万2000北朝鮮ウォン(約160円)前後。しかし、切符はダフ屋に買い占められているので、少なくともその10倍はする。利用希望者が多いと、相場はさらに上昇する。

また、時刻表通りなら24時間前後で到着することになっているが、実際は4日、ひどい場合には10日以上かかることもある。

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劣悪な鉄道事情のきっかけとなったのは、故金日成主席による「我が国は電力が豊富なので必ず電気鉄道を敷設しなければなりません」という教示だ。

世界最大級と言われた水豊ダムを擁し、石炭などの燃料も豊富だったので、鉄道を電化することは経済発展を目指す上で合理的と考えられたのだ。その結果、鉄道電化率は8割に達した。ところが北朝鮮は、1990年代以降の発電設備の老朽化、そして深刻な経済難により、極度の電力不足に陥る。そして高い電化率がアダになり、鉄道はマヒ状態に陥ってしまった。

それでも、鉄道に乗れたらまだマシな方で、ひどい場合には乗車を禁止されることすらある。北朝鮮で鉄道は、もはや信頼できる交通機関ではないのだ。

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一方のタクシーは、平壌から恵山までの500キロ以上の道のりを、たったの1日で走破してしまう。数日分の食費や憂さ晴らし用の酒・タバコ代がかさむ鉄道より、むしろ安いというわけだ。

さらにタクシーには、もうひとつメリットがある。

移動の自由がない北朝鮮では、他の地方に行くには旅行証(国内用パスポート)が必要になる。さらに国境地帯に入るには、特別な許可が必要になる。鉄道なら全ての書類を見せないと切符を売ってもらえないし、途中の検問でひっかかってしまう。

ところが、タクシーならドライバーに通常運賃の数倍を払えば、検問所も問題なく通れてしまう。検問所には定期的にワイロを掴ませているから、通行証なしでもさほど問題にはならないのだという。