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韓国と北朝鮮は9日、板門店(パンムンジョム)の韓国側施設「平和の家」で高位級会談を行い、共同報道文を採択した。共同報道文の中身は平昌冬季五輪に合わせた北朝鮮代表団の訪韓、軍事当局者会談の開催、南北間の問題を「わが民族同士」の原則で解決すること――以上の3つだ。

平昌冬季五輪への参加は、北朝鮮があらかじめ表明していたようなもので、驚きはない。軍事当局者会談が開催されることになったのは良かった。朝鮮半島情勢でいちばん怖いのは、偶発的な衝突が戦争にエスカレートしてしまうことだ。実際、2015年8月の地雷爆発事件でそのような状況になりかけたことがある。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

また、このところ相次いでいる朝鮮人民軍(北朝鮮軍)兵士の脱北でも銃撃が行われいる。さらに続けば、北朝鮮側がムキになってしまう可能性もある。

(参考記事:必死の医療陣、巨大な寄生虫…亡命兵士「手術動画」が北朝鮮国民に与える衝撃

そのような危機を防ぐ上で、軍事当局者会談は有益だ。

そして3つ目の「わが民族同士」の原則だが、これこそが、北朝鮮の狙いだったと見て間違いない。これについては、「米韓関係にくさびを打つもの」との解説が各メディアでなされている。筆者も同意見だが、この項目にはさらに、韓国世論を操作する狙い込められていると見ている。

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北朝鮮国営の朝鮮中央通信は8日付で、「民族自主の旗印を高く掲げるべきだ」と題した論評を配信した。高位級会談の取材で忙しかったためか、聯合ニュースなど韓国の主要メディアはどこもこの論評に言及していないのだが、これは非常に重要なものだ。

(参考記事:「わが民族に力ある」北朝鮮、韓国のナショナリズム刺激=論評全文

論評の日付は8日だが、ウェブサイト上での公開は9日の朝だったと思われる。同日の南北高位級会談にタイミングを合わせ、南北関係は「わが民族の内部問題」であるとする強調する内容だ。

この論評の核心は、次の一節にある。

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「こんにちの朝鮮民族は力が弱かったため外部勢力に国権を奪われ、亡国と分裂を強いられた昨日の弱小民族ではなく、自力で祖国統一を実現し、自己の運命を切り開いていくことのできる英知に富む力のある民族になった」

主語が「朝鮮民族」となっていることから、北朝鮮だけではなく韓国も含めた主張と言える。北朝鮮は核武装により軍事強国となり、韓国は経済強国として繁栄している。両者が力を合わせれば怖いものはない、という意味だ。より突っ込んでいうなら、「我々(北朝鮮)の核はあなた達(韓国)のものでもある」というメッセージとも取れる。

実際、高位級会談で韓国側が非核化に言及すると、北朝鮮側代表の李善権(リ・ソングォン)祖国平和統一委員会委員長は「我々の核は徹頭徹尾、米国を狙ったもので、同族を狙ったものではない」と言って反発したという。

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北朝鮮がこのような主張を続けると、何が起こり得るだろうか。韓国は、従軍慰安婦など歴史問題で日本との間に葛藤を抱え、在韓米軍の高高度迎撃システム(THAAD)配備問題で米中の板挟みとなっているだけに、ナショナリズムを刺激するメッセージは、韓国世論の一部に強くアピールする可能性がある。

李氏は会談で、「(会談のもようを)公開し、実況が全民族に伝わればどうかと思う」と提案している。韓国側はいったんこれをかわし、「必要に応じて」と回答した。仮に韓国側が受け入れていれば、北朝鮮側はテレビカメラの前で、韓国国民の目を意識しながらとくとくと「民族自主」の講義を行っただろう。

今後、北朝鮮が経済制裁の緩和や米韓合同軍事演習の中止を求めるようになれば、南北対話は決裂する可能性が高い。しかし北朝鮮は、そのような展開に持ち込むことを急がず、「民族自主」の主張を粘り強く続けるだろう。金正恩党委員長も、それをもって米韓同盟をすぐに解体できるとまでは考えていないはずだ。ただ、将来のための布石として、韓国世論の一部を引き付けておこうと狙っているとしたら、それが成功する可能性は低くはないと思われる。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記