北朝鮮の公式通貨は「ウォン(通称:北朝鮮ウォン)」だが、その価値は紙切れ同様になっている。価値が下がった最大のきっかけは2009年に北朝鮮当局が行った貨幣改革(デノミネーション:以下デノミ)だ。この時、ウォンでタンス預金を貯めていた多くの住民は大打撃を受け、デノミを強行した当局への怒りは爆発。当時の金正日体制は、混乱を収拾させるため、デノミの責任者だった朴南基(パク・ナムギ)を公開処刑した。
デイリーNKは、世界で最も早くデノミをスクープし、その後の朴南基の公開処刑情報も、いち早くキャッチして報じた。これに対して「処刑ではなく更迭」との否定情報もあったが、2013年に張成沢(チャン・ソンテク)が処刑された際、朴南基は「希代の反逆者」として名指しされたことから公開処刑は事実だと断定できる。
この公開処刑は、北朝鮮経済を支配する市場経済、つまり貨幣経済に金正日体制が敗北したことを意味した。これ以後、北朝鮮庶民はウォンをまったく信用しなくなる。実用貨幣としだけでなく、国家を象徴する貨幣という意味でも軽く扱われるようになった。それは、故金日成主席が描かれた紙幣が覚せい剤の吸引に使われていることからも明らかだ。
北朝鮮ウォンに代わって、市場では中国人民元が事実上の通貨になっているが、最も信頼される通貨は、北朝鮮が「不倶戴天」の宿敵とする米国のドルだ。