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北朝鮮では、ガスはさほど普及していない。都市ガスの設備があるのは、首都・平壌の特権層が住む地域に限られ、プロパンガスが使えるのも、恵まれたごく一部の人だけだ。鉱物資源の非常に豊富な北朝鮮だが、天然ガスは今のところ存在せず、ロシアからの輸入に頼っているからだろう。

黄海には石油が埋蔵されていると推定されてはいるものの、北朝鮮には探査を行うだけの技術力がない。生産が行われ、広く利用されているものは石炭だ。

(参考記事:北朝鮮、軍需工場の労働者にプロパンガスを優先供給

韓国電気産業振興会のまとめによると、北朝鮮の石炭推定埋蔵量は6億トンで、年間生産量は1990年に3315万トンに達していた。しかし、設備の老朽化や相次ぐ自然災害による坑道の崩落、修復する財源の不足などにより、1998年には1860万トンまで減ってしまった。

その後、再び増加に転じ、2016年には3106万トンに達するも、国際社会の制裁で輸出が断たれた影響で、2021年には1560万トンまで減少した。しかし、石炭は北朝鮮国内で最も重要で身近な燃料として広く使われている。最近では、個人の運営する練炭工場も登場したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

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平安南道(ピョンアンナムド)の炭鉱地帯の順川(スンチョン)に先月、個人が営む練炭工場ができたと現地の情報筋が伝えた。工場は次のような手法で運営されている。

まず、順川市人民委員会(市役所)から、収益の一部を納めることを条件に営業許可を得て、名義を借りる。実質的には民営だが、表面上は人民委員会の所属を装う。1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころから広く行われてきた「なんちゃって国営企業」の手法だ。食堂、商店、個人運送業では一般的だったが、練炭工場としては初めてだという。

(参考記事:ニューリッチの投資で私企業化する北朝鮮の国営企業

石炭は、国営の炭鉱から合議制価格(市場価格)の1トン7万北朝鮮ウォン(約1190円)で仕入れる。国営農場から1トン1万北朝鮮ウォン(約170円)で仕入れた泥と3対1の割合で混ぜる。国営の機械工場から購入した機械で、それを成形して、男性従業員が日のよく当たる乾燥場に運び、よく乾燥させた後で、おがくずを撒いて、段ボール箱に詰める。1日の生産量は3000個。ちなみに従業員は合計20人だ。

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完成した製品は、許可を得たトラックで首都・平壌の市場に納入する。

「順川の個人経営の練炭工場が、革命の首都である平壌への供給を支えているのが特徴的だ」(情報筋)

卸値は1個あたり350北朝鮮ウォン(約6円)で、毎日7トンの石炭を使い、売上は35万北朝鮮ウォン(約5950円)になる。そこから従業員の人件費と食費、段ボール箱購入費を引くと、利益は25万北朝鮮ウォン(約4250円)だ。

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平壌の情報筋は、最近、練炭入りの段ボール箱を積んで市内に入ってくるトラックが多いとして、いずれも順川で作られたものだと説明した。練炭工場の運営資金は、平壌の工場と企業所から出ており、輸送は国営企業のドライバーが担っている。国家経済計画に沿った生産ではない、工場独自の市場経済活動である「トボリ」の一環として運行されている。

1個350北朝鮮ウォンで買い取られた練炭は、別の商人に600北朝鮮ウォン(約10円)で売られる。そして消費者は、750北朝鮮ウォン(約13円)で購入する。

平壌市内でも、船橋(ソンギョ)、東大院(トンデウォン)、寺洞(サドン)の各区域には、燃料に練炭を使うように設計されているマンションが多いが、1990年代以降、国からの練炭の配給はストップしている。

また、特権層の住む市内の一等地の高級マンションには温水暖房の設備があるが、平壌火力発電所の稼働状況がよくないため、給湯と炊事ができる練炭ボイターを設置する家が増え、練炭の需要が増えていた。

「昨年まで平壌市民は、粉炭を買って練炭を手作りしていた。地方から入荷するようになってからは、市場で買い込んで越冬の準備をしている」(情報筋)

金正恩総書記は権力の座についた2011年以降、市場に対する介入を控えていた。そのため、それ以前に比べて人々が自由にビジネスを営める環境となっていたが、最近になって市場経済抑制策が取られるようになった。

特にコロナ以降にその傾向が強まっている。コロナ明けと共に、市場経済が復活しつつあるようだ。個人による企業の経営、従業員の雇用は、非社会主義・反社会主義現象として取り締まりの対象となる行為だが、取り締まりが緩和されたせいか、また行われるようになった模様だ。

ただ、ごく一部に限られた現象なのか、全国的なものなのかは今のところ不明だ。

(参考記事:コロナ明けで息を吹き返しつつある北朝鮮の市場経済