幼稚園児から年老いた老人に至るまで、すべての北朝鮮国民が定期、非定期で受けさせられるのが思想教育だ。故金日成主席の抗日パルチザン活動の歴史から、日々の暮らしのあり方に至るまで、ありとあらゆることを教育される。
人々は真面目に話を聞いているかといえば、そんなことはない。この時間を無駄と考えて、聞いているフリをするだけにとどまらず、私語に夢中になったり、居眠りしたりして、興味のある部分や、後で内容を覚えているか問われる部分だけ聞いているようだ。
(参考記事:「聞くだけでイライラ」金正恩の思想教育に国民は限界)北朝鮮社会のエリートである朝鮮労働党員も、当然のことながら思想教育を受けるが、その旧態依然とした内容に飽き飽きしているようだ。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
党咸鏡南道委員会(道党)は先月中旬、「党幹部たちは出力の高い拡声器となれ」というタイトルで、道党、各市や郡の党委員会(市党、郡党)の宣伝扇動部のイルクン(幹部)講習を行った。今月に入ってからは、各市党、郡党のイルクンに対する講習が行われ、咸興(ハムン)市では機関、工場、企業所の党書記、末端組織の細胞書記を対象とした講習が行われた。
昨年、党幹部が党の思想を住民に正確に植え付けることで思想教育に力を入れるべきという内容の講習があったが、今回の内容も概ね同じで、党員と勤労者への思想教育を行い革新を起こせというものだった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」以降で最悪とも言われる食糧難に見舞われている北朝鮮だが、苦しいときほど思想教育や内部の締め付けを強化する傾向にある。韓流コンテンツの視聴に加え、その影響を受けた言葉遣いやファッションまで取り締まっているのは、その一環と言えよう。
(参考記事:「言葉の韓国化」に無駄な抵抗を試みる北朝鮮)講習に参加した党員の反応は、冷ややかなものだった。
咸興市内のある企業所の細胞秘書は、「飢えと寒さに苦しむ住民に、どうやって党だけを信じて従えなどと言えようか」「根本的な問題は解決せずに思想教育ばかりせよと言われても、恥ずかしさのあまり言葉が出ない」と心情を吐露した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮で最も優遇されている首都・平壌ですら絶糧世帯(食べ物が底をついた世帯)が続出しているが、国内第2の都市、咸興でもまともな食事にありつけない市民が続出している。そんな中で「党の思想と意図どおりに生きなければならない」という思想教育を行えと言われても、党員ですら困り果てるのが実情。もはや思想教育で市民の不満を抑え込むのは難しいと、情報筋は見ている。
(参考記事:北朝鮮「首都市民の4割が飢餓状態」の衝撃情報)
実際、党員対象の講習の内容を伝え聞いた咸興市民の間では「(食糧ではなく)自分たちの思想が足りないから貧しいのか」という不満の声が上がっている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面情報筋は、このような思想教育の強化はむしろ逆効果だとして、人々の収入増大に直結する市場の営業時間を少しでも伸ばすことが、本当に人々のためになることだと述べた。
しかし、当局は市場への規制を強化し、改革開放を望む人々の願いとは裏腹に、かつてのような計画経済への回帰を目指すような動きを見せている。
(参考記事:市場への規制強化で商人の反発を買う北朝鮮)