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北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は今月13日、全国の農場において「基本面積」の田植えが10日までに終わったと報じた。去年も一昨年も全く同じように10日までに終わったと報じている。

雨が降ろうが槍が降ろうが、当初の計画通りに田植えが終わったということにするのが北朝鮮のやり方だ。だが、現場からはまったく異なる声が聞こえてくる。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、内閣農業委員会は、全国的な田植えの状況を分析するために、各道に対して状況を随時報告すると同時に、15日までに完了させるよう要請した。

これは「田植えがどれだけ進んでいるか知らせてくれ」という意味の要請ではない。北朝鮮式の解釈では「もし期日までに終えられなければ、厳しい処罰が待っている、覚悟せよ」となるのだ。

各道は慌てふためいたものの、コロナ対策で移動制限が強化され、都市部の労働者の農場への動員が円滑に行われなかったなどの理由で田植えが大幅に遅れていた。現場にプレッシャーをかけたところで、進捗が早まるわけでもない。

(参考記事:田植えの遅れに焦る北朝鮮、指示乱発に農民から反感

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コロナ鎖国による営農資材の不足により、現場では稲の苗が不足し、他の農場から盗み出す農場も現れる始末。また中央からは、朝鮮労働党の配慮だとして揚水機100台が供給されたものの、ガソリン価格の高騰で実際には使えなかったという。

(参考記事:窃盗が多発する北朝鮮、今度のターゲットは「稲の苗床」

地方幹部が悩みに悩んだ末に出した結論。それは「終わったことにしよう」というものだった。

平安南道の場合、9日に中央に対して田植えが完了したと報告した。それは、「あと5日もすれば全て終わるだろうから問題ないだろう」という判断に基づいたものだった。そして、道内の農場に対して「5日以内に終えよ」との指示を下した。

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文徳(ムンドク)、粛川(スクチョン)、平原(ピョンウォン)の農場では、松明の火を灯して、徹夜で田植えをするはめになったという。

それでも15日までに全て終えることはできなかった。そのことを知った中央は、「良心的にやったのかどうかは、秋の収穫に現れるだろう」「その時に厳しく総和(総括)する」「穀物生産目標を達成できなければ、全員に責任を取らせる」などと警告したとのことだ。

これに対して平安南道は、電気が供給されなければ田んぼに水が引けず、収穫減少は避けられないとして、なんとかしてほしいと要求している。

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なお、韓国の慶南大学国土衛星情報研究所のチョン・ソンハク副所長による、衛星写真を使った分析によると、今月12日の時点で、前述の平原の田植え達成率は88.0%、黄海南道(ファンヘナムド)延安(ヨナン)で80.1%、平壌周辺では75.9%にとどまっている。昨年同期比で、それぞれ5.8%、12.0%、7.4%遅れている。

また、各地の貯水池の貯水率は昨年比で3〜4割ほど減っており、今後の稲作への深刻な影響が懸念される。

一連のエピソードには農業のみならず、北朝鮮そのものが抱える構造的な問題が克明に現れていると言えよう。

農業は、天変地異など様々なリスク要因により収穫量が左右されるものだが、北朝鮮でそれらは一切考慮されず、無条件で前年を上回る収穫量の達成を要求される。達成できなければ、責任者は厳しい批判にさらされ、重い処罰を受けることになるため、質は度外視してスピード重視で作業が進められる。

それでも達成できなければ、達成したと虚偽の報告を行う。それに基づいて翌年の計画が作成されるため、計画と実際の収穫量の差が乖離していくのだ。かくして、庶民は食糧難に苦しむことになる。

(参考記事:毎年凶作の北朝鮮農業、何が問題なのか?

計画経済、速度戦、重罰主義――いずれも北朝鮮の体制の根幹を成す要素だ。金正恩総書記がいくら「農業第一主義」を叫ぼうとも、根幹が腐っていては、万年不作から抜け出すのは困難だろう。