北朝鮮の首都・平壌で建設されていた普通江(ポトンガン)川岸段々式住宅区。今月13日に竣工式が行われ、金正恩総書記がテープカットを行った。
日本のメディアでも、入居予定者の朝鮮中央テレビの李春姫(リ・チュニ)アナウンサーが金正恩氏の視察について回り、大喜びするシーンが何度も放送された。李氏は出演時に着用するチマチョゴリの色から「北朝鮮のピンクレディー」として知られる看板アナだ。
(参考記事:金正恩氏「普通江川岸段々式住宅区」竣工式でテープカット)国営の朝鮮中央通信も「豪華住宅区」と表現したこの住宅を巡り、一般住民の間では不満が渦巻いている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
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ちょうど金日成・金正日銅像のそびえ立つ万寿台の裏側、瓊楼洞(キョンルドン)の普通江沿いに斜面に建てられた計800戸のこの住宅地、平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、竣工式の様子を伝えるテレビ番組を見て、うらやましさと同時に剥奪感を感じたと述べた。言い換えると、差別、疎外されていると感じたということだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面機械工場で旋盤工として数十年にわたって黙々と働き、朝鮮労働党に対して忠誠を守って生きてきたと自負する情報筋は、「小さな家1軒すら国からもらったことがない」としつつ、「体制の宣伝の先頭に立つラッパ手(アナウンサーなど)が高級住宅を贈られたのを見ると、自分のような存在はこの国で人間扱いされていないと考えた」と述べた。
他の旧共産圏諸国と同様に、北朝鮮は万民が平等ということになっているが、実際は激しい格差社会で、カネが物を言う拝金主義社会だ。また、生活必需品から住宅に至るまで無料または極めて安価で手に入れられるという配給制度も、多くの地域で形骸化している。
だが、そんなタテマエが未だに存在しているかのごとく、宣伝し続けているのは他ならぬ国営メディアだ。黙々と働き続けている人は冷遇され、宣伝機関に携わる人々が特別待遇を受けているのを見て、怒りを感じるのは当然のことだろう。
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一方、平安南道(ピョンナンナムド)の情報筋は、豪華住宅の完成は、金正恩氏の指示に基づいて現場に派遣された朝鮮労働党員からなる突撃隊(半強制の建設ボランティア)の昼夜を分かたず続けられた労働の結果だとし、自らもその一員だったと述べた。
突撃隊は、普通江の豪華住宅がほぼ完成した今年3月、今度は和盛(ファソン)地区での1万世帯住宅建設に投入されたとのことだ。いくらエリート予備軍とは言え、ヒラ党員は一般庶民。そんな人々の血と汗と涙で平壌の住宅建設が行われているのだ。
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そんな彼ですら、豪華住宅が党の思想を宣伝扇動するアナウンサーらに与えられた様子をテレビで見て、力が抜けて働く意欲を失ったという。
「党員突撃隊と青年突撃隊は機械のように死ぬまで労働に駆り立てられているのに、体制の宣伝の先頭に立ち、口を動かし文章を書いている人々は高級住宅を贈られ、贅沢な生活を知ているのを見ると、わが国(北朝鮮)の現実は、昔の封建奴隷制と変わらない。党のラッパ手だけが人間なのか」(情報筋)
金正恩氏がハコモノ建設に力を入れるのは、手っ取り早く目に見える業績として示せるためという理由がある。しかし、それを見る庶民は、むしろ体制に対する違和感や反感を強めているのだ。
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