2013年8月、日本と韓国のメディアは、金正恩氏の恋人であるとの説が取りざたされていた北朝鮮の有名歌手、玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏が公開処刑されたと報じた。

美貌のバイオリニストが

玄松月氏など北朝鮮の有名芸術団のメンバー9人がポルノ映像を撮影し、頒布したことと、金正恩党委員長の夫人・李雪主(リ・ソルチュ)氏を中傷したというのがその理由だ。真偽の問い合わせを受けた韓国の国家情報院が「その事実を知っている」と答えたともあって、この情報は、あたかも事実であるかのようにとらえられた。

ところが、玄松月氏はしばらくして、第9回全国芸術大会にモランボン(牡丹峰)楽団団長として登場。マスコミと国家情報院の情報に間違いのあることが明らかになった。

だが、北朝鮮の有名芸術団のメンバーの行為が罪に問われ、公開処刑されたのは事実とされている。この出来事は、北朝鮮国内でも激しい衝撃を持って受け止められた。

脱北者で韓国のNGO・北朝鮮戦略情報サービスセンター代表のイ・ユンゴル氏は、この事件に関する詳細な情報を入手したとして、韓国のタブロイド紙・日曜新聞の11月27日付でレポートしている。

それによると、メンバーらは防音仕様の練習室でポルノ映像を撮影。高額で売りさばく行為を長年にわたり続けていたとのことだ。ちなみに、この行為を主導したのは、北朝鮮でもトップクラスの美貌のバイオリニストだったという。

猟奇的な権力者

また、処刑されたメンバーの家族は、ことごとく政治犯収容所の革命化区域に送られたという。

しかしそれにしても、いくら北朝鮮ではポルノが違法であると言っても、このようなことで処刑にするとはあんまりである。そもそも、権力層はやりたい放題であり、その猟奇性はポルノ撮影どころではない。

正恩氏もまた、週に3、4回も徹夜で遊ぶほどのパーティー狂いだと言われている。父親の金正日総書記も「喜び組パーティー」を開いていたことが知られていたが、これには、幹部同士で業務の意見調整をさせる「料亭政治」のような側面もあった。しかし、部下のちょっとした態度に腹を立てて処刑してしまう正恩氏に、そのようなことが出来るとも思えない。

このような権力層の腐敗に比べたら、芸術団メンバーらのポルノ撮影など遊びでしかない。それを死に追いやる理不尽な体制は、何らかの局面で国民から見放され、倒れるしかないであろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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