北朝鮮の金正恩党委員長が下したある決定を伝える内部文書を、韓国のNGO・自由北韓放送が入手した。北朝鮮の治安状況と、党内の様子を知る貴重な資料であると判断し、デイリーNKジャパンでは同団体の承諾を得て、これを掲載する。

文書のタイトルは「敬愛する金正恩同志の2016年9月9日の指示」で、副題は「重要道路で強盗行為が起きていると提起された〇〇資料と対策案」とある。つまり、金正恩氏が犯罪行為を報告する資料を見て下した指示(方針)を全国の党組織に伝える文書だ。

同団体は、北朝鮮北部の国境都市の党委員会に配布された文書の写真を、内部協力者を通じ入手した。なお、写真を見ていただければ分かるが、文中ではすべて地名が〇〇で伏せられている。これはこの文書があくまで、強盗の「手法」を示し、警戒を強化する目的のものであることを示している。

車を停めさせ襲撃

文書は、北朝鮮国内の高速道路で起きている強盗行為を、5件の例をあげ、非常に細かく伝えている。

1件目は、「昨年(2015年)11月、未詳の犯罪者たちは、〇〇市〇〇里の18人民班地域に位置した00-00高速道路の道路上に、大豆のカスを入れた『マデ(数十キロの容量がある、薄いプラスチックや麻でできた袋)』を置いておいた。それに気づいた小型バスの運転手が車を停めて袋を確認しようとしたところを、道路脇に潜んでいた彼らが飛び出し、木の棒で運転手を殴り気絶させたあと、ノートパソコンと携帯電話2台を持って逃げた」というものだ。

2件目は「昨年12月に、未詳の犯罪者たちが 、〇〇市〇〇里の18人民班地域に位置した00-00高速道路の道路上に、トウモロコシを入れた『マデ』を道路に置いて道路脇に潜んでいた。乗用車を停めて袋の中身をのぞこうとした〇〇局長と運転手を木の棒で殴り気絶させ、携帯電話と300ドル、10万ウォン(約1,000円)を強奪した」。

文書を見ると、この二件はほぼ同時期に、同じ場所で起きていることが分かる。

高速道路上に「おとり」の袋を置き相手に襲いかかる手法も似ており、同一犯である可能性が高そうだ。

ただ、袋が置いてあるからと、車を停めてまで確認するというのは驚きだ。これは、北朝鮮の高速道路のほとんどが直線道路に近く見通しの良いことと 、通行量が極端に少ないという理由によるものだろう。

3件目は「昨年4月、未詳の犯罪者たちが、〇〇区域〇〇里の15人民班地域に位置する〇〇-〇〇観光道路で貨物自動車を修理していた運転手に走り寄り、石と木の棒で殴り倒したあと、携帯電話2台と現金470万ウォン(約6万2,000円)を強奪し逃走した」というものだ。

観光道路は高速道路の一種で、特定の地域に敷かれた道路についてこの名称が用いられている模様だ。おそらく平壌から名勝地・妙香山(ミョヒャンサン)を結ぶ「平壌―香山観光道路」を指すと思われる。また、「〇〇区域」というのは平壌市内の行政区画のことであり、平壌の郊外で事件が起きたものと見られる。

さらに、1件から3件目まで「未詳の犯罪者」という呼称が使われている。これは犯人が未だ逮捕されていないことを指すようだ。これに比べ、4件目と5件目の事件は犯人が逮捕されているのか、記述が具体的だ。

4件目は「〇〇道、道路建設旅団の〇〇道路建設隊の労働者は昨年1月、〇〇郡107人民班地域に位置した〇〇―〇〇観光道路周辺の山に隠れ、道路を渡ろうとしていた女性労働者を殴りつけ、携帯電話を奪ったのをはじめ、二度にわたり、同じ場所で歩行者を対象に強盗行為を行った」とある。

続く5件目は、「〇〇市協同農場経営委員会の労働者が昨年6月、〇〇郡〇〇労働者区、78人民班地域に位置する〇〇―〇〇観光道路において、自転車を押して帰宅中の〇〇病院の助産師に走り寄り、カバンを奪いとる強盗行為を行ったのをはじめ、昨年11月から現在まで、重要道路で強盗が〇〇件も発生した」とある。

この2件は、いずれも歩行者を襲った点が特徴だ。

北朝鮮の高速道路は通行量が少なく、歩道橋なども無いため、周囲に住む人々が歩いて横断するのが当たり前になっている。歩行者を狙った犯行は、人通りが少ないという点を見越してのものだと思われる。

韓国のNGO・自由北韓放送が入手した、高速道路での強盗を取り締まることを命じた金正恩氏の指令文書
韓国のNGO・自由北韓放送が入手した、高速道路での強盗を取り締まることを命じた金正恩氏の指令文書(クリックで)拡大

文書ではさらに以下のような金正恩氏の「方針」を伝えている。

「以前は高速道路や観光道路での強盗行為はとても珍しかったのだが、最近では続けざまに発生し、人々に不安を与えている。こうした犯罪行為を放置する場合、人民の生命と財産に危害となるばかりでなく、国家の対外的な印象まで悪くすることもあるため、萌芽の段階で踏みつぶさなければならない」。とても簡潔で厳しい内容だ。

そして文書の最終部分で「対策的意見」と称し、「党組織と勤労団体組織、人民政権機関において、住民と労働者に対する教養と統制を強化し、高速道路と観光道路をはじめとする重要道路において強盗行為が起きないようにします」と結ぶ。これは今回の「方針」に対する現場の総括だ。

これにて最高指導者の「方針」が地方の党組織に伝達されたことになる。さらにこの内容を、党のイルクン(職員)たちが、人民班会議や職場の教養の時間などで住民に説明することで、金正恩氏の「方針」が全国津々浦々に伝わるのである。

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