金正恩党委員長は、急な世襲による体制の動揺を抑えるため、保衛部に対し保安省(警察)や軍よりも強い権力を持たせている。つまりは体制の「番犬」である。権限が強化された一例として、人民軍が担当していた国境警備はすべて保衛部の傘下に入ったことが知られている。保衛部がこの権力をもって、従来の「シマ」ではなかった「密輸ビジネス」を荒らしているかっこうだ。

保衛部による「荒らし」の方法は、具体的には2通りある。まずは密輸そのものへの関与だ。これは人民の中に入り込み、保衛部に情報をもたらす「情報員」への報酬代わりに行われる。北朝鮮では保衛部も「自給自足」であるため、保衛部正規職員ひとりあたり2~30人もいる情報員に報酬を払う余裕はない。代わりに自由に密輸をさせ、情報員の生活を保障する。

もう一つは、密輸業者からの取り立てだ。