被災者数が30万人に上ると見られている、北朝鮮を襲った大水害。水害は8月末から9月初めにかけて、北東部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)で発生。普段は大規模事故や災害の詳細を伝えたがらない北朝鮮当局が、「解放後初めてとなる大災害」であるとして、人的・物的な被害状況を、数字データ入りで報じたほどだ。

もっとも、被災者数は「6万8900人」としていたが、その後、韓国の民間シンクタンクや国際赤十字が把握した情報から、実際にはその4倍以上にもなることが判明した。

予告なしでダム放流

最近になり、被災地の衛星写真が「グーグル・アース」で更新された。災害前に撮影された画像と比べた印象は、「衝撃的」の一言に尽きる。

被害が最も深刻だったとされる茂山(ムサン)郡では、中朝国境の川・豆満江(トゥマンガン)沿いに1.2キロメートルにもわたって建物群が押し流され、廃墟と化している。これは被災地の一部に過ぎない。全体でどれほどの惨状が広がっているのか、想像しただけでも戦慄を覚える。

これまでも繰り返し指摘してきたが、こうした被害の一部ないし相当部分は、人災によりもたらされたものだ。北朝鮮では過去にも、大規模な災害や事故が起きるたび、人災により被害が拡大するということが繰り返されてきた。

今回の水害においては、北朝鮮当局による「予告無しのダムの放流」が被害を拡大させたと言われている。

両江道(リャンガンド)白岩(ペガム)郡にある「西頭水(ソドゥス)水力発電所」で、急激な雨量増加に排水が間に合わず、ダムの擁壁が崩壊する危険性があったため水門を開いたのだが、これが事前通告もなく夜中に行われたのだ。

それにしても不思議なのが、北朝鮮が最近、韓国の朴槿恵大統領のスキャンダルにつけ込み、宣伝戦を大々的に繰り広げていることだ。その中では、韓国の大型旅客船・セウォル号の沈没事故について韓国政府の責任を追及してみたり、「朴槿恵政権を必ず打倒しよう」などと韓国国民を煽ったりしている。

まさしく、天に唾する行為だ。

北朝鮮の国民たちは、恐怖政治で抑えられているから、政権打倒のデモには出られないが、水害(人災)により家族や友人を奪われた怒りは間違いなく心の中にうっ積している。朴槿恵氏のスキャンダルが政権打倒に値するものなら、金正恩体制のやってきたことは、どれほどに重い罪なのか。

また、北朝鮮の「朴槿恵打倒」報道は、北朝鮮の国民も見ている。彼らはそれに、どのような思いを募らせているのだろうか。

北朝鮮自身が「解放後最大」と認めるこの出来事が、いずれ金正恩体制の命運に大きな影響を与えるような気がしてならない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

    関連記事