北朝鮮当局は、全国民を対象に梅毒などの性感染症の検査の実施を決めた。しかし、予防効果には疑問が示されている。

デイリーNK内部情報筋によると、当局は全国民、特に女性を対象に、性感染症や婦人科疾患の検査と治療に乗り出した。全国的に性感染症の感染者が急増しているからだ。

当局は1990年代から外国との行き来が頻繁な平壌市に住む女性を対象に性感染症の調査を行うようになった。また、2005年には、「梅毒と淋病患者を全面調査せよ」の内閣決定書に基づき、平壌市内の各病院や大学は、人民班(町内会)で女性を対象に検査を行った。今回は、対象が全国に拡大した形だ。

北朝鮮で医師の経験を持つ脱北者によると、北朝鮮女性のほとんどが婦人科疾患を患っていると証言した。しかし、医療システムが劣悪で、今も前近代的な思考が支配しているため、治療には消極的なのだという。

先進的な女性政策、立ち遅れた社会の認識

北朝鮮は、建国前の1946年7月30日、男女平等権法令を含む一連の政策を発表すると同時に、女性の健康のための保健事業に力を入れるなど、当時としては先進的な女性政策を打ち出していた。

1980年には、平壌市内に近代的な現代的な総合産婦人科病院である平壌産院を開設した。 また、道、市、郡の病院に産婦人科を設置し、専門医を配置するなどして、妊婦の疾病治療に力を注いできた。

一方で、性感染症、婦人科疾患についての社会的認識は遅れており、女性は病院に行かずに治療しようとする。また、90年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を境に、北朝鮮の無償医療システムが崩壊し、まともな治療が受けられなくなった。

さらに、生きていくために売春を行なう女性が増え、性感染症や婦人科疾患を患う女性が増加した。係官にワイロを渡したり、性上納行為に応じたりことで、性感染症の感染がさらに拡大している。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

性感染症で刑務所送りに

社会の認識の遅れは、性感染症に感染した女性を苦しめている。

平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)出身の脱北者、イ・ジンスクさん(24)は、苦難の行軍のころに両親を相次いで失い、市内の工場の寮に身を寄せていた。市内の南中洞(ナムジュンドン)に住む在北朝鮮華僑の家に買い物に行ったが「一緒に寝たら値段をまけてやる」と持ちかけられ、断りきれずに要求に応じた。

それから2ヶ月後、全身に水疱ができて、痒くて掻きむしったところ、炎症となった。そこで、塩水で体を洗う民間療法で治療しようとしたが、病状はむしろ悪化した。恥ずかしさをこらえ区域の病院の婦人科に行って検査を受けた結果、梅毒と診断された。

幸いに第2期だったため、200万単位のペニシリンを半月間注射して全快した。しかし、性上納したことが知られ、保安署(警察署)に呼び出され批判書を書かされた上で、懲役6ヶ月の刑に処されたという。

前述の2005年の検査では、平壌市在住女性の10人に3人が梅毒や淋病の保菌者であることが判明した。対策と同時に性感染症の予防教育、治療が求められるが、性感染症の感染の責任を女性になすりつけるような社会的風土が変わらない限り、改善は見込めないだろう。