米下院のイリエナ・ロスレティネン外交委員長が先週、「北朝鮮人権法」を2022年まで5年間延長する法案を発議した。2004年に時限法として成立した同法は、日本人拉致問題も含め、北朝鮮の人権状況が改善されない限り、米国から北朝鮮への人道支援以外の援助を禁止すると定めたもので、これまでも2度、延長されている。今回もまず間違いなく延長が決まるだろう。

恐怖政治で支配

以前、本欄でも書いたことだが、米国と北朝鮮が対話できない理由は、この法律にあると筆者は考えている。

北朝鮮にとって、核兵器と弾道ミサイルの開発は、条件次第で取引材料に乗せることが可能だ。米国との国交正常化が保証され、大規模な経済支援が期待できると踏めば、金正恩党委員長は少なくとも対話のテーブルにはつくだろう。

しかし、恐怖政治で国民を支配する北朝鮮の体制にとって、人権問題は体制の根幹に触れるものであり、交渉のテーブルに乗せることなどできるはずがない。

いずれケリをつける

では、米国が人権問題を引っ込めて、北朝鮮との関係改善に向かう可能性はあるのか。それもまた、あり得ない話だ。現に、米国は人権問題で金正恩氏を制裁指定するなど、攻めの姿勢を強めている。

そうである以上、北朝鮮の暴走もまた止まらないだろう。

米国の政治家たちも当然、それくらいのことはわかっているはずだ。わかっていて人権問題の追及を強めるのは、正恩氏に宣戦布告するようなものだ。また、「金正恩に対話をする気がないなら、いずれ違う形でケリをつけるしかない」との結論に内心で達しているのだろう。

その一方で、煮え切らないのが日本政府だ。国連で北朝鮮の人権状況改善を求める決議を10年以上にわたって繰り返し、正恩氏を袋小路に追い込んだのは日本政府である。

なのに、安倍政権は今なお、北朝鮮との「ストックホルム合意」にしがみつき、国交正常化を視野に入れた対話を模索している。米国は、北朝鮮の人権侵害が改まらない限り関係改善はないと言っている。北朝鮮もまた、人権問題の改善を拒否している。

こんな状況で米国をぶっちぎり、北朝鮮の独裁者と握手のできる政治家が日本にいるのだろうか。

実際には、安倍首相はじめ日本の政治家も、北朝鮮との対話を模索することに意味はないということを悟っているのだ。しかしそれを言うと、「拉致被害者をどうやって取り戻すのだ」と突き上げられる。それで仕方なく、「対話を模索するフリ」をしているのである。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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