8月末、北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンブクト)地域を台風による集中豪雨が襲い、死者138人、失踪者400人、被災者6万9000人(国連、北朝鮮メディア発表まとめ)という過去最大の水害が発生した。国連による人道支援が動き出す一方で、韓国では「この情勢下、北に対する人道支援は是か非か」という議論が未だ続いている。韓国政府は否定的な立場だ。そんな中、故郷が被災した韓国在住の脱北者はどのような思いを抱いているのか。脱北者のキム・ジフン氏(仮名=男性・30代)が手記を寄せてくれた。

「金正恩将軍様万歳!」と叫ばせてはならない

筆者は被災地である咸鏡北道で生まれた。現地で軍隊生活を終えたあと行政機関に勤務し、2012年に韓国に入国した脱北者である。

北朝鮮の実情を知る者として、なかなか答えの出ないテーマである「北朝鮮への人道支援」についてどう考えているのかを、率直にまとめたい。

民間人に偽装した軍が待機

結論から言うと、これまでと同様の人道支援が行われるならば反対だ。

徹底的かつ透明な支援条件を提示できないまま行われる無分別な支援は、金正恩の立場を強め、地位を高める政治的な目的に利用されることになるというのがその理由だ。

過去、未熟な監督・監視の下で行われてきた北朝鮮への人道支援は、飢餓の蔓延により政権維持に不安を覚えていた独裁政権に「恵みの雨」のような作用をもたらした。支援物資の大部分は飢餓にあえぐ住民ではなく、北朝鮮の軍隊の手にわたったからである。

例えば2005年、支援物資を積んだ船が清津(チョンジン)港に到着する際に、物資を受け取ったのも軍隊である。

病院が横流し

軍はこれを悟られないよう、港に出入りするすべての部隊の自動車のナンバープレートを、わざわざ軍用のものから民間用のものに付け替えた。さらに、荷を運ぶ兵士も私服に着替えさせる徹底ぶりだった。

また、物資が人道支援によるものであることを隠すため、「大韓民国」「USA」と書かれた包装を一つ残らず回収し、軍の管理の下、すべて焼却した。他にも医薬品が病院ごとに配られたが、その大部分を病院側がブローカーにさっさと横流しし、ひと儲けする始末だった。

具体的な例を挙げると、2007年、咸鏡北道の清津医大病院の幹部は、国連から支援されたビタミン剤「P500」を卸売り商人に一粒50ウォンで横流した。さらに市場の零細商人に転売され、市場では一粒300ウォンの値がついていた。

「将軍様はさすがだ」

病院がする事といえば、患者に処方箋を書き「必要な薬品は市場で入手してきなさい」と伝えることだけだった。

支援物資が供給されると、軍人たちを対象に政治教育を行い、人道的な支援物資ではなく「金正日将軍様の配慮で米の供給があった。社会主義を圧殺しようとする米国とその追従勢力が将軍様の胆力と気迫を前に、謝罪の意味で捧げる物資である」とウソの宣伝を行った。

当時、軍人たちのほとんどは、外部世界との接触が遮断されていたため、国内外の全般的な社会状況を全く把握できていない状態だった。このため、宣伝をそのまま信じ込み「わが将軍様はさすがだ。敵が食糧を送ってくるほど強いのだ」と兵士同士で言い合ったことが思い出される。

助けたいのが人情だが…

このように、北朝鮮当局は外国からの人道支援であるという事実自体を隠そうとした。だが、軍に供給された援助米が、さらに横流しされ民間の市場で流通する中、「大韓民国の米」であることが知られたのだった。

住民たちの口を通じ「将軍様が強いからではなく、貧しさを見かねて世界中から送られてきた支援物資である」という噂が広まった。とはいえ、市場で流通している時点ですでに支援物資では無かったのだが。

話を現在に戻す。

今回、水害の被災者の切迫した事情を考えると、支援を行いたいのが人情だ。そのためには、支援が金正恩独裁政権の政治的な目的を追求する道具ではなく、韓国政府(あるいはその他の国)による「平和のメッセージ」であることが、現地の住民にきちんと伝わるような形で行われなければならない。

被災者の集団に直接

では、具体的にどのようにすべきか。

被災者を集め「海外(韓国)から人道支援として送られてきた支援物資を分配する」という形式をしっかりと取って、住民の集団に直接供給するならば、被災者のためになるだろう。

また、家を失った被災者たちのための臨時収容施設を作り、集団給食を施すことで、実際に被災者に支援物資が行き渡るようにする方法も望ましい。セメントや重機などは、徹底的な監視を通じ、用途の確認をする他にない。

ただ、北朝鮮当局がこうした公開的な手続きを認める可能性は限りなく低い。透明性が保障されない限り、前述したように、支援物資が政治的な目的に利用され、当局のフトコロを温めるだけとなる。

過去、人道支援の名目で北朝鮮政府に送られた支援物資は、すべて金氏一族による政治的な「成果」として取り扱われてきた。今回、新たに人道支援を行うならば、被災者が支援物資を受け取る際に「金正恩将軍様万歳!」と叫ぶことがあってはならない。それを防げないのならば、支援するべきではない。

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