先月末、北朝鮮を襲った台風10号(ライオンロック)によって大被害が起きた。国連の平壌常駐調整官室によると、死者138人、行方不明者400人に達するとしているが、犠牲者の数はそれを上回るとの情報が後を絶たない。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)市で、川沿いに設置されていた国境警備隊の哨所(監視塔)の多くが流され、多数の兵士が死亡したと伝える中、デイリーNKの内部情報筋も被害の詳細を伝えてきた。

兵士が濁流に流され…

国境警備隊のうち最も被害が大きかったのは、咸北27旅団所属の茂山(ムサン)大隊、南陽(ナミャン)大隊、それに延社(ヨンサ)郡の部隊だ。

8月31日の夜中、突如として増水した豆満江の水に兵舎が飲み込まれた。就寝していた兵士たちは、逃げる間もなく濁流に流された。いずれの兵舎も川岸から20メートルのところに位置していたため、被害を避けることできなかった。

小隊ごとに30数人が死亡または行方不明となり、難を逃れたのは歩哨に立っていた2人だけだという。

行方不明者そっちのけで…

さらに、堤防上にあった数十の警備哨所(監視塔)も全て流された。他より規模が大きい夜間探知機哨所も7~8人の兵士ごと流され、基礎すら残っていない。

当局は復旧作業に乗り出したが、案の定人命を軽視するやり方に現場からは怒りの声が上がっている。

当局は、人民武力省の責任幹部を平壌から現地に派遣し、実態調査を行わせた。

「人災」との声も

生存した兵士、将校、郷導隊(民間軍事組織)を動員し、復旧作業に当たらせているが、行方不明者の捜索や遺体の収容はそっちのけで、主に流された武器、弾薬、高価なドイツ製の夜間監視設備の捜索に当たらせているという。

また、脱北者が増えることを恐れて、動員された人々を復旧ではなく国境監視に当たらせているというのだ。住民に対しては午後9時以降の外出をしないように命じた。

今回の水害だが、当初から人災だとの指摘がなされている。

氾濫した豆満江の流域に、数百ミリの大雨が降ったのは事実だ。しかし、被害を大きくしたのは、北朝鮮当局による「ダムの放流」だ。

ダム放流で被害拡大

その一つ「西頭水(ソドゥス)水力発電所」は、ダムに溜まった水を発電用の水路から放流していた。しかし、この水路だけでは大雨により急激にたまった水を排水できず、ダムの擁壁が崩壊する危険性があったため、水を開いて放流を行ったようだ。

しかし、ダムの放流は、事前通告もなく夜中に行われた。

北朝鮮と豆満江を挟んで向かい合う中国吉林省延辺朝鮮族自治州の図們市政府は31日の午前、午後に川の水位が上がり、洪水の危険があるとして、低い建物に居住している住民に対して避難するよう、携帯一斉メールを発信した。

中国は事前に察知

その理由は「北朝鮮の2ヶ所のダムが放流を始め、堤防が洪水対処能力を超えるから」としている。

つまり、中国当局は、北朝鮮から通告があったのか、独自の情報網で察知したのかはわからないが、放流の事実をいずれかの時点で察知し、その情報を国民の安全を守るために公開していた。

一方、北朝鮮の人々は何も知らされないまま、濁流に消えていったのだ。

図們市政府が市民に一斉送信した避難命令のメール(画像:精彩図們) 図們市政府が市民に一斉送信した避難命令のメール(画像:精彩図們)

図們市政府が市民に一斉送信した避難命令のメール(画像:精彩図們)
図們市政府が市民に一斉送信した避難命令のメール(画像:精彩図們)

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