北朝鮮の大都市で行われている、完全に企業化された売春産業の一端が明らかになった。

貿易会社の職員として雇用された女性が、幹部や富裕層を相手に毎月5000元(約7万7千円)以上を稼ぎ出す。咸鏡北道(ハムギョンブクト)に住むデイリーNKの取材協力者A氏が伝えてきた生々しい内容を公開する。

A氏が実際に施設で売春を行っていた女性に取材した内容によると、この女性が働いていた清津(チョンジン)市内の施設の場合、マッサージ屋の看板を掲げて運営していたという。マッサージ代は80元(約1200円)。客が女性の場合にはそのままマッサージをするが、男性客は追加費用200元(約3100円)を払い、女性を買うシステムになっていた。先に行為に及んだ後で、マッサージを受けるとのことだ。

公開処刑も「何のその」

この施設で働く女性は10人ほどで、20代前半が8割を占めていた。「いずれも美女ぞろいで、客足が途絶えることは無かった」とA氏は言う。女性たちは通常三か月間隔で咸鏡南道(ハムギョンナムド)の咸興(ハムン)や、江原道(カンウォンド)の元山(ウォンサン)など、他の大都市へとローテーションで働くシステムだった。また、女性の健康管理が徹底していて、行為中にはコンドーム着用が義務付けられ、体調不良の場合には休みもきちんと取れたというから驚きだ。

女性の取り分は5割。客は通常、端数を切り上げた300元(約4600円)を施設に支払うため、150元(約2300円)が女性の懐に入る。女性たちは毎日平均2人ほどの客を取っていたというから、毎月の稼ぎは優に5000元を超える。これは北朝鮮ウォンに換算すると600万ウォンを超え、平均的な4人家族の一年分の生活費に匹敵する大金だ。

金正恩党委員長「売買春を一掃せよ」との指示を下しているというが、一向に下火にならない理由がわかるような気がする。

A氏の取材によると、運営元は、外貨稼ぎを行う貿易会社であるという。元々はカジノも擁する北朝鮮随一の経済特区・羅先(ラソン)特別市内で、中国人観光客向けに行われていた商売であったが、爆発的な評判を呼んだことから、国内の大都市への展開を始めたもようだ。当局の取締りを避けるため、女性たちは貿易会社のマッサージ屋で働く美容師やリハビリ補助士として登録されている。

客層は「トンジュ(金主)」と呼ばれる新興富裕層の男女の他に、昔からやりたい放題に慣れている党や企業所の幹部など権力者層も多く訪れる。このことからも、彼らの庇護の下で売春業が行われていることが分かる。

長い経済難が続き女性のための満足な職場も無く、近年では資本主義化が進む中で貧富の格差が拡大したこともあり、北朝鮮で売春は女性の収入源の一つとして、ここ数年とみに活性化してきた。今回のA氏の報告からは、これまで個人を中心に行われていた売春が組織化されている様子が垣間見える。

先述したように、金正恩政権は売春を厳しく取り締まっている。2014年には恵山(ヘサン)市で売春を斡旋した男性2人が公開銃殺されている他に、強制収容所送りなどの厳罰も辞さない構えで臨んでいる。だが、国家が住民の生活を優先視せず、今のように核やミサイル、一部の権力者のぜいたくのために予算を使う限り、売春業が拡大こそすれ沈静化することはまず無いと見てよいだろう。

売春業の盛行は、北朝鮮という国家が抱える問題点を克明にあらわしている。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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