金正恩氏が少し控えめだ。北朝鮮は9日に行った5回目の核実験で、核弾頭の小型化に成功したと主張しており、大々的に金正恩氏の業績を宣伝してもおかしくない。

しかし、13日の労働新聞は、金正恩氏が核実験関連ではなく、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)傘下の農場で、新種のトウモロコシを現地視察したことを報じた。同紙によると、正恩氏は朝鮮中央通信曰く「腕のようなトウモロコシと弾丸のように実った稲穂」(嫌みではなくなかなか秀逸な表現だ)を見ながら大満足したという。

正恩氏が控えめなワケは?

核実験の直後に農場を現地視察とは、これまでの金正恩氏の行動パターンからすれば、いささか不可解である。この裏には一体何があるのだろうか。

韓国当局によると北朝鮮は既に第6次核実験の準備を完了したと明らかにしている。
もしかすると、来月10日の朝鮮労働党創建日に、第6次核実験を行い、二つの核実験をパッケージとして誇示するため、今回は控えめに対応しているのかもしれない。

もう一つの理由として考えられるのが、庶民らへの配慮。北朝鮮北部を襲った台風10号(ライオンロック)の影響により、咸鏡北道(ハムギョンブクト)では、甚大な被害が発生。朝鮮労働党は、別の任務にあたっていた主力部隊を復旧作業に急派するなど、被災地に配慮した対応を取っている。

金正恩氏は、核実験ではなく、復旧作業に力を入れていることをアピールすることを優先したのかもしれないが、こうした判断は今までにはあまり見られなかった。

あくまでも筆者の推測だが、金正恩氏はもしかすると、人民大衆からの愛情を求めているのではないだろうか。

正恩氏がトイレで感じる孤独感

金正恩氏は、支配層に対しては極めて恐怖政治で統制を強めており、側近たちは、腫れ物に触るように接している。彼自身も、己が恐怖の対象となっていることは重々承知しているだろう。ホンネで話せるのは、李雪主(リ・ソルチュ)夫人や実妹の金与正(キム・ヨジョン)氏ぐらいか。

また、時折突拍子もない行動で、護衛部隊を困らせているという内部情報がある。それすらも、孤独感に悩まされ、夜中に1人寂しく鬱憤を晴らしているのかもしれない。

また、警備上の理由から一般人と同じトイレすら使えない。不便な思いをしながら、人民大衆とかけ離れた孤独な立場にいる自分に対して寂寥感を抱いていることだろう。

「正恩氏わいせつ動画」のウワサ

このように独裁者として孤独な立場にいる正恩氏が、水害復旧をアピールすることで、人民大衆へ強いラブコールを送っていると見るのは考えすぎだろうか。もちろん、その裏には金正恩体制を盤石にしたいという狙いもある。

ただし、彼がどれだけ孤独を感じようと、自分自身が招いたことであり、庶民たちの知ったことではない。一部では「金正恩氏が登場するわいせつ動画が存在する」という真偽不明の怪情報が飛び交うほど、正恩氏の権威は軽く見られている。

(参考情報:金正恩氏が登場する「わいせつ映像」の怪情報

金正恩氏が、人民大衆からの真の愛情を求めるのなら、水害復旧を最優先するのもいいが、大衆のなかへ入り、より一般大衆目線で物事を見ることを学ぶべきだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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