※この記事には事故現場の凄惨な光景の描写が含まれます。

ベルギーのルーヴェン大学災害疫学研究所の統計によると、北朝鮮では、2005年から2014年までの10年間で大事故が3件発生し、134人が死亡している。また、1987年からの25年間に、自然災害を含めて2700人が犠牲となっている

しかし、これは北朝鮮政府が国際機関に報告したもので、実際はこれより遥かに多くの事故が発生している。

例えば、2013年10月には、国防委員会の庁舎新築の工事現場で崩壊事故が発生し、80人が死亡した。また、1989年4月には、平壌開城高速道路の建設現場で橋が崩落し、500人以上が亡くなった。さらに、2014年11月には、平壌市内の23階建てマンションが突然崩壊し、450人以上が犠牲となった

このような事故多発の一因として指摘されているのが、北朝鮮特有の「速度戦」と呼ばれる突貫工事だ。

太陽節(金日成氏の誕生日=4/15)や光明星節(金正日氏の誕生日=2/16)において成果として示すため、当日に間に合うよう、無茶苦茶なスケジュールで工事を行うのだ。その結果、手抜きが多発する。

谷底の惨状

また、別の原因による事故も多発している。「施設の老朽化」だ。

北朝鮮では、日本の植民地統治時代や、朝鮮戦争後に旧ソ連などの援助で建設された工場、発電所、ダムなどが大した補修もされないまま未だに使われている。

その最たる分野の一つが「鉄道」なのだが、平壌と東海岸の羅先(ラソン)を結ぶ平羅(ピョンラ)線では、老朽化に起因する大事故が過去に2件も起きている。

血で染まった川

事故が起きたのは1989年の夏のことだった。平壌から北朝鮮東海岸の最北端にある穏城(オンソン)に向かっていた列車は、秋夕(チュソク、旧盆)で帰省する人で超満員、屋根の上にまで人が乗っている状況だった。

列車が脱線、川底に落下した事故の現場と思われる平羅線城内駅そばの鉄橋(画像:Google map)
列車が脱線、川底に落下した事故の現場と思われる平羅線城内駅そばの鉄橋(画像:Google map)

列車が屯田(トゥンジョン)駅を出て、城内(ソンネ)駅の直前にある鉄橋に差し掛かった時、急に転覆し、5両の車両が数十メートル下の谷底に転落した。

川底が浅かったため、列車も乗客もまともに岩盤に叩きつけられた。現場にいた人の証言によると、死者は数百人から1000人に達したという。咸興(ハムン)の咸鏡南道体育団の選手300人の多くが犠牲になった。

軍の部隊が現場に急行し、一帯を封鎖。48時間ぶっ通しで怪我人の救護、犠牲者の遺体の収容など事故の収拾に当たった。あまりにも悲惨な現場であったため、作業に当たる者は酒を飲まずしては目の前の光景を直視できないほどだったという。

脱北し、韓国の朝鮮日報記者となった姜哲煥(カン・チョラン)氏は、それからしばらくして事故現場を通過した。橋から下を見下ろすと、川の水が血で赤く染まり、車両の残骸が谷底のあちこちに転がっていたという。

鉄筋に「串刺し」

実際に事故現場を見た人の証言は伝えられていないが、前述の平壌開城高速道路の橋崩落事故の現場とさほど変わらない惨状が広がっていたことだろう。以下、現場の状況を伝える証言から一部を抜粋した。

現場に急行した医師や看護師、難を逃れた軍人や一般労働者たちは、現場に入る前に飯盒の蓋に注がれた医療用アルコールを渡され、飲み干すように指示された。それは現場が正視に耐えないほどの惨状を呈していることを意味していた。

そして彼らが川原で目にしたのは、想像を絶するほどのおぞましい光景だった。

頭部が半分なくなった人、機械の下敷きになりぺしゃんこになった人、鉄筋に串刺しになった人など死体があたり一面に散乱していた。 (中略)

同時に遺体収集作業も行われた。当初はあまりの光景に震えるだけだった看護師たちも、アルコールを飲んだ効果があったのか、感覚が麻痺したのか、まるでゴミを拾うように肉片を手で掴んで担架にひょいひょいと載せていった。そうでもしないと、いつまで経っても作業が終わらないほどの状況だったのだ。

北朝鮮ではこんな事故が、ほかにも起きている。2006年の4月のことだ。

デイリーNKは事故の詳細を取材するために、中朝国境の中国側にある三合から北朝鮮の清津(チョンジン)鉄道管理局の南陽分局機関車隊関係者と電話インタビューを行った。

関係者によると、平羅線の高原(コウォン)駅を出発し、浮来山(プレサン)駅に向かっていた貨物列車が、旅客列車と正面衝突した。

この旅客列車の1両には兵役を終えた除隊軍人、1両には今から入隊する軍人、そして残りの4両には一般住民が乗っていたが、軍人270人、民間人400人が死亡する大惨事となった。

死者増大の理由

乗客が全部で何人乗っていたかはわからないが、軍人の乗っていた車両が機関車のすぐ後ろに繋がれていたため、正面衝突した貨物列車に押しつぶされ、犠牲者の数が多かったという。

また、事故現場は高原の中心市街地からさほど遠くないにもかかわらず、救援活動が遅れたため、死者が増える結果となった。その責任を問われ、高原分局のすべての担当者が免職となり、教化所(刑務所)に収監された。

三合でデイリーNK取材チームとインタビューした会寧(フェリョン)鉄道隊で線路の補修を担当しているチェ・ギリョンさん(42、仮名)は「電力の問題が事故の原因」と語った。

「停電が頻繁に起こり、時刻が守れなかったことが事故の最大の原因。高原駅を出発したが、停電のため止まっていた貨物列車に、旅客列車が衝突した可能性がある」

脱線多発の原因

北朝鮮の鉄道事故は、154人が亡くなった2004年4月の龍川(リョンチョン)駅爆発事故を除いては、一切公表されることはないが、実際はかなりの頻度で起きていると言われている。その多くが旅客列車だ。

一部区間では屋根の上にまで人が乗るような状況であったため、一度事故が起きると非常に多くの人命が失われる大惨事となる。

それらの原因は、前述したとおり「老朽化」だ。

特に道床の老朽化とメンテナンス不足による事故が多い。90年代まで咸鏡南道の鉄道員として働いていたある脱北者が、韓国土地公社(現LH韓国土地住宅公社)発行の雑誌「統一と国土」2000年の冬号に「北朝鮮の鉄道の実態」という記事を寄稿した。その記事から鉄道事故多発の原因を探ってみる。

北朝鮮の列車の一般的なスピードは時速30キロから50キロだ。直線区間や下り勾配ではそれ以上のスピードを出すことがあるが、1990年に著者が同僚の機関士から聞いた話によると、許されている最高速度は時速70キロ、平均時速は50キロから60キロだ。

これは、北朝鮮鉄道の中でも最も整備されている区間、つまり外国人の乗車が多い平義線の平壌~新義州間などでなければ出せないスピードだ。それ以下のスピードでも、状態の悪い他の路線では脱線の危険性が高まる。

無謀な重量級貨車

道床の状態は非常に深刻だ。

貨物を満載した列車の場合、3センチから4センチも上下の揺れを繰り返し、連結部位では5センチから7センチも揺れている。北朝鮮ではコンクリート製の枕木が使われているが、レールが犬釘できちんと固定されていないため、列車の揺れがひどいのだ。また、近隣の住民が犬釘を抜いて屑鉄として売り払ってしまうため、さらに揺れはひどくなる。

マルチプル・タイタンパーなどのバラスト(砂利を敷いた道床)を整備する機械もあるにはあるが、外国製なので数が非常に限られているため、人の手に頼らざるをえない。使うにしても、材料、燃料不足で、メンテナンスや補修工事もなおざりになってしまう。

そんなことを数十年も繰り返した結果、バラストに不純物が多く含まれるようになり、列車の荷重を支えきれなくなっているのだ。

ボロボロの橋脚

それにもかかわらず、北朝鮮は金日成氏の指示に基づき、100トンの重量級の貨車を開発し、運行に投入した。

『将軍様の鉄道』(国分隼人著 新潮社)によると、これは1987年に開発された「赤旗8」という貨車だ。鉱石や鉄製品などを積載するために、一般の貨車より車軸が倍も多い8軸となっている。

路盤はもろくなっているのに、重い貨車を走らせているため、曲線での脱線が頻発している。特に炭鉱専用線での脱線事故が多い。

橋脚も老朽化が進行しているのに、メンテナンスがまともになされていない。

平義線や平羅線などの幹線に架かる橋も老朽化と腐食が激しく、列車は30キロ以下の徐行運転を強いられる。上述の事故も、橋脚の老朽化に加え、レールのメンテナンスがいい加減だったことが原因だと上記記事の著者は見ている。

電力供給は不安定そのものだ。

著者が脱北する前の1991年当時に鉄道変電所で働いていた友人から聞いた話では、鉄道では3000ボルトの直流電流が必要となるが、これがまともに供給されるのは午前2時から3時の間だけで、昼間には1800ボルトまで下がることもあったという。

さらに、そんな状態が続いているため、ただでさえ老朽化している電力設備の状態がさらに悪くなり、電力が不安定になるという。

以上は、2000年に書かれた分析記事だ。それから16年が経ったが、さほど状況が改善されてはいない。

2004年に、韓国の統一研究院が発表した報告書によると、北朝鮮鉄道の主要幹線を補修するだけでも50億ドル以上かかると推測されている。

これは、昨年10月10日に開催された朝鮮労働党創健70周年を記念する軍事パレードが2.5回できる額だ。

つまり、軍事費を抑えれば、鉄道などのインフラ補修に多額の予算が投入できるということになる。金正恩氏のカネの使い方がいかに偏っているかがよくわかる。

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