韓国のNGO、北韓人権情報センターは1日、「北朝鮮政治犯収容所の勤務者、収容者、失踪者人名辞典」を出版した。

同センターは、2003年の設立以来、北朝鮮当局による人権侵害の被害者の証言を記録、保管し、データベース化してきた。北朝鮮の人権蹂躙の実態に関する記録を集め、広く外国に知らしめる。そのうえで、北朝鮮国内の機関や担当者に直接、間接の圧力を与えることを目的としている。

せい惨な拷問も

今回の人名辞典は、最近韓国に入国した脱北者を対象にした調査と、既存の調査内容を保存されている「北朝鮮人権統合データベース」の政治犯収容所拘禁事例3825件と、行方不明事例1181件の中から、具体的な人物を確認できるものを選んだものだ。

北朝鮮の政治犯収容所で、常態化している人権侵害は、ナチス・ドイツがアウシュビッツ強制収容所で行ったユダヤ人の大虐殺(ホロコースト)を彷彿させると言っても過言ではない。そうした意味で、このような資料が発表される意義は大きい。

辞典によると、収容所の勤務者は51人。内訳は警備隊員が51%、保安員(警察官)が29.4%の順だ。さらに、収容者と収容推定者759人、死亡者と収容経験者137人、行方不明者499人の情報を要約、整理している。

罪を犯していなくても

収容者、収容推定者、行方不明者1258人の罪名で最も多かったのが、連座制の365人(29%)だった。北朝鮮で悪名高き「連座制」が、最も多いことが数字のうえで明らかになった。罪を犯していなくても、「この世の地獄」と称される収容所送りにされることがある。最近では、金正恩党委員長が継母の家族さえも連座制で収容所送りにしたという話もある。

連座制に続くのが、韓国への亡命の試み132人(10.5%)。不平不満を口にした102人(8.1%)、不法越境72人(5.7%)、宗教活動62人(4.9%)、敵との接触52人(4.3%)、密輸密売49人(3.9%)だった。性別では、男性が60.5%、女性が29.4%、年齢別では30代が14.1%、40代が11.6%で、45.6%は年齢不詳だ。女性は男性の約半数だが、男性以上に人権を蹂躙されている証言は数多く出ている。

もちろん、これらの数字はわかっている範囲での調査であり、氷山の一角に過ぎない。センターは「政治犯収容所内に人権状況は劣悪であり、現在起きている、また今後も起きる人権侵害の予防と最小化、国際社会との連帯を通じて被害者のための最低限の措置を図るための努力の一環」と出版の理由を明らかにしている。また「深刻な人権侵害を処罰するための調査を行うにあたって、非常に有用な情報」だとし、英語、日本語、スペイン語への翻訳が行われていると述べた。

北朝鮮の人権侵害の実態が明らかになることはとめられない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

    関連記事