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北朝鮮の体制下においては、たとえ軍幹部といえども、私的な人脈作りを行えば厳しく監視される。実際、1990年代にはある「同窓会」が血の粛清を受けており、それ以来、軍人たちへの統制はさらに強まった。

(参考記事:同窓会を襲った「血の粛清」…北朝鮮の「フルンゼ軍事大学留学組」事件

つまり、「強硬」か「穏健」か以前に「派」を作ることができず、最高指導者の意に反して「暴走」することなどできないのだ。マスコミが「軍部の暴走」と言いたがるのは、さしずめ旧日本軍の「2.26事件」のイメージを引きうつしているだけだろう。

もっとも、誤解のないように言っておくならば、たとえ人民武力部が「省」に改称されていたとしても、それは金正恩氏が軍事力への依存を弱めたことを意味するわけではない。正恩氏は今後もますます核戦力の整備に注力するだろう。人民武力部の処遇変化は、統治行政上の都合によるものと見るべきだ。

しかし、軍の威信低下は、生粋の軍人たちの「やる気」の減退にもつながりかねないわけで、軍事国家・北朝鮮の今後に、様々な影響を及ぼし得ることも事実だ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記