北朝鮮の山はハゲ山だらけだ。1976年10月の朝鮮労働党第5期12回全体会議で採択された「自然改造5大方針」に基づき、大々的に山を切り開き、国中に段々畑を作ったためだ。

保水力を失った山からは大雨のたびに土砂が流出し、大規模な水害を引き起こし、農場に壊滅的な被害を与えた。それが90年代後半の大飢饉「苦難の行軍」の一因となった。

ハゲ山の原因はそれだけではない。苦難の行軍に配給システムが崩壊、食糧も燃料も配給されなくなったため、人々は畑を作るために、また薪を集めるために、山の木を切ってしまったのだ。

鎌で殺害

金正恩党委員長は、木の伐採を禁止し、個人耕作地を没収し、苗木を植える「山林復旧戦闘(森林造成事業)」を大々的に進めている。しかし、現実を無視した強引なやり方が、様々な問題を引き起こしている。山林監視を行う山林保護員(森林レンジャー)が殺される事件が相次いでいるのだ。

両江道(リャンガンド)の内部情報筋によると、事件が起きたのは6月19日のこと。道内の三水(サムス)郡番浦里(ポンポリ)で、担当区域のパトロールに出かけた山林保護員が行方不明になった。保安局(警察)は遭難したものと見て、軍と合同で山中を捜索したが、6月24日に遺体となって発見された。

遺体には鎌と思われる凶器で切られた傷があったため、保安局は殺害されたものと断定し、捜査に乗り出した。しかし、証拠や犯人に繋がる手がかりが一切見つからず、捜査は難航している。

同様の殺人事件は4月中旬に、雲興(ウヌン)郡の日建(イルゴン)労働者区でも起きているが、犯人はまだ捕まっていない。

老人が襲撃

慈江道(チャガンド)の内部情報筋によると、山林保護員は、盗伐団に襲われることがしばしばある。

盗伐団は斧や鎌を持っているが、山林保護員は武装していないため、やられてしまうのだという。

昨年末、道内の中江(チュンガン)郡長城里(チャンソンリ)で、パトロールに出た山林保護員が行方不明になる事件が起きた。現場のすぐそばを流れる川を渡れば中国。当局は、山林保護員が脱北したものと思い込み、家族を脅迫するなどひどい扱いをした。

ところが、雪解け後の今年3月に、現場付近で遺体が発見された。盗伐団に襲われたものと思われる。

また、2009年にも、薪を切っているのを咎められた老人が山林保護員を襲ったが、反撃されて意識不明の重体に陥る事件が起きるなど、枚挙に暇がない。

高すぎる罰金

盗伐団とは言っても、そのほとんどは薪を切りに山に入った一般の住民だ。

木を切ったことがバレれば、労働鍛錬隊送りとなり、1平米あたり30万北朝鮮ウォン(約3900円)の罰金が取られる。薪も練炭も買うカネがない人が、コメ60キロ分に相当する額の罰金を払えるわけがなく、隠蔽するために、手に持っていた鎌や斧で山林保護員を殺してしまうというのだ。

情報筋は「森を守るために一所懸命働いていた人が命を奪われるなんて」と嘆きつつ、「お上が薪の問題を解決するか、山林保護員を武装させるかしなければ、今後も悲劇は続く」と述べた。

山に木を植えて水害を防止することが、農業での増産につながるという金正恩氏の考えに間違いはない。

失政の証拠

ただ、問題はそんなに簡単ではないのだ。

配給システムが崩壊しているため、食料の供給は、民家周辺や山にある個人耕作地で収穫された作物に頼っている。個人耕作地が没収されると、農作業ができなくなり、供給される食べ物の量が激減してしまう。最悪の場合、大飢饉につながりかねないのだ。

また、市場に売る食糧がなくなれば、現金収入が得られなくなる。そうすると、人々は市場でモノが買えなくなり、消費が冷え込む。地域経済が重大な影響を受けるのだ。

延々と連なるハゲ山には、68年にもわたる北朝鮮の失政の歴史が凝縮されているのだ。

    関連記事