北朝鮮はこれまで、建国の父である金日成氏をはじめとして、金正日・正恩氏の経歴や人となりを神格化してきた。金一族の神格化は、単なる建国神話や国家ヒストリーの域を超えて、体制維持の背骨でもある。

しかし、その神話も蓋を開けてみればねつ造だらけ。既に客観的な歴史資料などから、北朝鮮の数々のねつ造は暴かれている。このようなねつ造は、北朝鮮国内においては、徹底的に隠蔽することができるだろう。しかし、日本をはじめ海外に現存する過去の資料までに手が届くはずもなく、北朝鮮の過去のウソは容易に暴くことができる。

女子学生でも政治犯収容所送り

金正恩党委員長の偶像化を進めるうえで、最大のアキレス腱となるのが、実母の高ヨンヒ氏。彼女の生まれ育ちをはじめとする出自について、公式にはほとんど触れられない。やはり、大阪の鶴橋で生まれ育った在日朝鮮人だという経歴が、「国母」として相応しくないのか、神格化に難航しているようだ。

そんな中、金正恩氏の偶像化に疑問を持つ人が増えつつあり、北朝鮮当局が弾圧と言っても過言でないほど力で抑えつける事件が発生したと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えてきた。

先月20日頃、平壌市内の3人の学生が逮捕された。2人は平壌市萬景台区域萬景台1洞に住む金日成総合大学の男子学生。1人は、萬景台区域七谷洞に住む建設建材大学の女子学生だ。

男子学生2人は、金正恩元帥が、金日成氏の生家・萬景台を一度も訪れていないのはおかしいと感じ、何らかの形で正恩氏の生い立ちに疑問を呈した。これが、密告され北朝鮮の秘密警察「国家安全保衛部(保衛部)」に連行されてしまった。

女子学生の方は、本人ではなく、家族が職場で金正恩氏の生い立ち問題について疑問視したことが問題となり、連座制で家族もろとも悪名高き政治犯収容所送りになった。詳細は不明だが、政治的な言動というより、ほんの些細な疑問が命取りになったのかもしれない。いずれにせよ、この程度で過酷な政治犯収容所に送られるのは、理不尽極まりないだろう。

昨年には、金正日氏の生家とされている白頭山密営で、見学者に説明を行う講師2人が、金正恩氏のおいたち問題について何らかの発言をしたかどで、収容所送りになっている。

両江道(リャンガンド)では、保衛部が三池淵(サムジヨン)郡の住民に対して「金正恩氏の血統に疑問を呈することは絶対に許されない」と強い警告を発した。その一方で、道内の幹部や知識人の間では、金正恩氏の生い立ちに疑問を持つ風潮が広まり、全国に拡散しているという。

北朝鮮当局が治安機関を動員して、プロパガンダに都合の悪い言動を取り締まろうと、人の口に戸は立てられないのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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