こうした事例は、いまだ国際社会で広く知られるには至っておらず、情報が共有された時の衝撃は相当に大きなものになるだろう。
それだけに、北朝鮮は同事務所の開設を受けて猛烈な非難キャンペーンを繰り広げた。朝鮮労働党機関紙の労働新聞などは、「北朝鮮人権事務所がソウルに巣くったことによって、北南関係は、最悪の破局を迎えることになった」などとしながら、「反共和国人権騒動の終着点は、戦争だ」とまで言い切っていたほどだ。
そもそも、北朝鮮が国連制裁をものともせずに核開発に突き進む背景には、人権問題で日韓や欧米により追い詰められ、主要国との関係改善に絶望していることがある。
金正恩氏らに「人道に対する罪」を問うための証拠集めは今後も粛々と続くだろうが、いずれ北朝鮮が、過激な報復に出てくる可能性も捨てきれない。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。