北朝鮮当局も痛いところを突かれたのか、国連とダルスマン氏に対して猛反発した。今年1月には、ダルスマン氏に対して「米国の手先」「操り人形の役割をする汚い守銭奴、穀潰し」などと罵倒した。しかし、いくら北朝鮮が罵倒しようとも、この先、国連の追及がやむことはない。
北朝鮮の人権侵害の多くは、金日成氏によってシステム化され、正日氏に受け継がれた。正恩氏は、自身の正当化の拠り所とする祖父と父親の偉大性とともに、「負の遺産」である人権侵害を受け継がざるをえなかった。北朝鮮の人権侵害は体制維持のためにシステム化されたものであり、解明や改善は体制不安につながりかねないからだ。
金正恩体制にとって人権問題とは「前門の虎、後門の狼」といえる。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。